彼と彼女の勝負 中編
「困りましたわ……」
二つの野菜を手に、すっかり困り果てている少女が一人。
片方がブロッコリー?と、もう片方がカリフラワー?である。
無論だが、今の彼女には、ブロッコリーには何かしらのマークなどをつけておかないと判別できないわけであり、現状としては黒マジックペンでしっかりと『ブロッコリー』と書いてある。
「どうやって見分ければ……」
ほとんど形は同じ。匂いで見分けるという手段も使えない。
このままでは、圭一との勝負に負けてしまうことは必死であった。
「どうすればいいんですの……」
だったら、色で見分ければいいと言いたい人もいるであろうが、そこに気付かないのがまた彼女らしさと言ったところだろう。
沙都子は何度も悩んだが、辿り着く結論は一つだけ。
――覚えるしかない。
それに考えてもみれば、ブロッコリーかカリフラワーの二者択一。
つまり、二分の一は当たると言うことなのだ。
もし、どちらかちっとも分からなくても、勘で当たると言うことは十分に有り得るだろう。多分……。
しかし、そんな手段をとっているのは、彼女のプライドが許さない。
「『実力』で、圭一さんに勝たなければ……」
そう呟いて、再び彼女はその二つの野菜に目をやる。
何かしらの特徴を見つけ出さないと……。
そう思う沙都子の目は燃えていた。
そして、翌日。
一日の授業が全て終わりを告げ、魅音主催の部活が始まるまでのわずかな時間。
圭一と沙都子の二人は、校庭の中央で向かい合って立っていた。
圭一の手にはスーパーの袋が握られている。恐らくその中に、どちらかの野菜があるのだろう。
「よく逃げずに来たなぁ。沙都子ぉ!!」
「ふん。圭一さんこそ、よく逃げずに来ましたわね。でも、すぐに跪かせてあげますわ」
二人の視線が交錯し、バチバチと火花が散っているように周りからは窺い知れた。
互いにニヤリと笑う。お互いが本気であることを確認できたためだ。
「よっぽどの自信だな。沙都子」
「今日こそ、克服してみせますわ」
自信満々にそう言った沙都子に対して、圭一はおもむろに持っていたスーパーの中に手を突っ込ませる。
そして、その中から出てきたのは白色の物体。
これは――もちろん、カリフラワーであった。
「これがどっちか、分かるか? 沙都子」
それを見せられた沙都子は、しばらく黙り込んで考え込む様子を見せた。
どうやら必死に考えているらしい。色で判別すれば、すぐに分かると言うのに。
「ひょっとして、分からないのか? 沙都子」
ニヤリと笑みを浮かべる圭一。
「くぅ……」
それを悔しそうに眺める沙都子。
そうして、幾分か時間が過ぎ……
――彼女がようやく口を開いた。
「これは……」
続く
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