「ブロッコリーですわ!」
 自信満々にそう言い切った彼女。
 そんな彼女の答えに、影ながら圭一はニヤリと笑みを浮かべる。
「へぇ……。ブロッコリーでいいのか?」
「うっ……。だ、大丈夫ですわ」
 とは言うものの、まだまだ不安要素が拭いきれていない様子の彼女。
「カリフラワーかもしれないぜ?」
「い、いえ。これは間違いなくブロッコリーですわ」
「本当にか?」
「え、えぇ」
「本当にいいんだな?」
「うっ……」
 ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている圭一を見て、さすがの沙都子も動揺の色が浮かぶ。
 彼の笑みは、間違っているための笑みなのだろうか。
 それとも、ただ自分を罠に誘い込むためのものなのだろうか。
 これが部活のゲームだったのなら、沙都子は彼の考えを読めていたのかもしれない。
 しかし、今日の勝負は二人だけのもの。
 それに失敗をすれば、常識知らずの称号が与えられるも同然なのだ。
 そのためか、彼女の身にはいつも以上のプレッシャーがかかっていた。

「や、やっぱりカリフラワーですわ」
「へぇ。ってことは、変えるんだな?」
 してやったり――
 彼女に向けられる 圭一の表情からは、そんなものが窺い知れる。
 それさえも罠なのか……。それとも……。
「や、やっぱりブロッコリーにしますわ」
「また変えるのか? 沙都子。ひょっとして、分かってないとか?」
「し、失礼ですわね! そんなことはありませんわ!」
 彼女は、圭一の笑みが彼の罠だろうと頭の中で結論付けた。
 確認を取るように、彼女に対して圭一が尋ねる。
「じゃあ、ブロッコリーでいいんだな?」
「えぇ。それで構いませんわ!」

 そう答えると、二人の間には妙な沈黙が訪れた。
 ゴクリと固唾を飲んで、沙都子は彼の答えを待つ。
 決して長くはない、いくつかの時が流れた。
 ようやく圭一の口が開かれる。彼の笑みと同時に。

「残念だったなぁ、沙都子! これはカリフラワーだ!」
 それを聞いた沙都子は、見る見るうちに顔色を変える。
「う、嘘ですわ……ッ!!」
「残念だが、これが現実だ。沙都子」
 ニヤニヤと笑みを浮かべ、彼女の様子を眺める圭一。
 そんな顔を見ていると、いくらでも文句を言ってやりたくはなる。
 だが、言えない。自分は、勝負に負けた――つまり、敗者なのだから。
 それは分かっている。
 しかし、こみ上げてくる悔しさはどうしようもないのであって。

「わ、わたしが圭一さんに負けるなんて……有り得ませんわ!」
「お前もそろそろ認めろって……」
 彼女の諦めの悪さに、圭一も思わずため息をつく。
「だって、だって……わたしだってブロッコリーか、カリフラワーかぐらい見分けられますわ。今日は偶然分からなかっただけで……」
 彼女の目頭には涙が浮かんでいるようにも思える。
 それは、仕方のないことかもしれない。
 彼女の心には、圭一に負けた悔しさもあるだろう。
 しかし、そんなことよりも、常識を知らないと圭一に認識されてしまうことが、彼女自身にとってはよほど辛かったに違いない。
 そういったことに鈍感である彼は、彼女の涙の理由がわからない。
 ただ――優しく彼女の頭を撫でる。
 
 沙都子は、そんな彼の手に兄の優しさと似たようなものを感じた。
「にーに……」
 思わずそんな声が漏れる。
 今まで悲しんでいたはずの自分の心が、どこか晴れやかになっていく。そんな感覚を彼女の心は感じ取った。
 だが、そんな彼女の心を打ち砕く圭一の一言が放たれる。
「で、沙都子。ちゃんと、罰ゲームは覚えてるよな?」

「お、覚えていますわよ」
 これだから鈍感と言うものは、本当に困る。
 ムードだとかそういうものは、へったくれもない。少しぐらいは、このままでいてくれればいいというのに。
「これから一週間、メイド服で俺に尽くしてもらうからな!」
「……肝心の服は、どこで調達するんですの?」
「フッ、監督から選びに選び抜かれた極上のものをチョイスしてやるさ」
「……? 監督はどうしてそんな服を持っているんですの?」
 彼女はそう言って、首を傾げる。
 まぁ、彼女は監督の真の趣味と言うものを理解していないのだ。
 彼女の中の監督のイメージを崩さないためにも、ここは黙っておくことにしておいた。
「まぁ、それは秘密事項だ」
「……? 分かりましたわ」
 沙都子はまだ納得がいっていないようであったが、何とか首を縦に振った。
「まぁ、楽しみにしておいてもいいと思うぞ。沙都子。お前も新たな趣味に目覚め……」
「絶対に、目覚めませんわ!!」
 やはり彼にはムードというものがないらしい。



終わり


あとがき
 不正解編……終了です。とはいっても、やはり正解編と同じでこの後の後日談?を書こうかな……と思ったり思っていなかったり。
 なので、皆様からのリクエストがあれば、書こうと思います。大体はメイド口調の沙都子と、ご主人様といばる圭一がイメージ的にあるんですがね。
 フリー小説としまして、満足していただけるでしょうかと不安です。
 ひぐらしに関しては、書き始めたばかりですが……これからもよろしくお願いします。
 では、今日はこの辺りで