恋する女性は、時に極大な力を……(以下略) 第1話


「先輩……」
 校門の付近でたった一人佇む女子生徒。彼女の名前は――井上秋乃という。
 ついでに言っておくが、彼女は親の迎えを待っているわけでも、はたまた、家に帰る方法を度忘れしてしまったわけでもない。
 彼女にとって待つべき人物。その人物の名を――昇神彗と言う。
 その人物が校門を通るのを、ずっと待っているわけである。
 無論、その隣に余計な付属品(某死神少女)が着いているのはとっくに想像しているわけなのである。
 しかし、彼女はそれでも待つ。
 彼の意識がどちらに向いているかどうかは分からないが、諦めるわけにはいかないのである。
 それは彼女の誇りでもあり、彼女の意地でもあった。
(死之神先輩には負けません……!)
 いや、極端な表現をすれば、彼女の原動力、コアとなっているのかもしれない。
 それほどまでに彼女の恋は、季節など関係ないほど情熱的なわけである。

 と、そんなことを考えているうちに、校門を通る一つの影。
 それは紛れもなく彼女にとっての――標的。
「先輩!」
 その人物――昇神彗に声をかける。
「ん? 誰かと思えば、井上か」
 不意に声をかけられて、彗は足を止めて、秋乃へと視線を向けた。
「あ、井上さん。こんばんは」
 案の定、その隣には付属品――死之神円花がいた。
 とはいっても、秋乃にとって彼女の存在は、決して邪険な存在なわけではなく、いい好敵手であり、いい先輩のようなものであった。
 あくまでも、少し憎く感じられるのは、彼に対することのみだ。
「昇神先輩。死之神先輩。こんばんは」
「おう。って、どうして、お前がこんな時刻まで残ってるんだ?」
 早速ながら、聞かれたくない質問と言うものをされてしまった。
 言い訳が見つからず、思わず言葉が詰まる。挙句の果てには
「今まで部活をやってたんです」
 と、彼等には言っておいた。だとすれば、どうして校門にいるんだ、という話でなる。
 しかし、彼等二人は持ち前の鈍感さ故か、何一つ不思議に思わず
「ふーん……。そうなのか」
「がんばってるんですね。井上さん」
 それぞれながらに、彼女の言葉にそう納得した。
 秋乃は思わず小さな動作で、ホッと安堵のため息をついた。
「それで、先輩方はこれからどちらへ?」
 今度は目の前の二人の動きがぎこちなくなる番であった。とはいっても、ぎこちなくなったのは彗だけであるが。
「あー、えっと……」
「それは彗さんの……」
「ストォォォォォォップ!!」
 何かを言おうとした円花の口を、彗が手で塞ぐ。
 とはいっても、時すでに遅し。それだけで秋乃の頭に該当するキーワードは一つのみ。
 ――彗の家というわけであろう。
「へぇ……。じゃあ、私も着いていっていいですか?」
「何に納得したんだ、って……は?」
 今、こいつは何を言った? と言いたげな彗の表情。
 対して円花の表情には、何の変化もない。ただ首を傾げているだけであった。
「いいですか?」
「あ、あぁ。って……来ても何もないぞ」
「それでも構いません!」


 この状況は一体何なんでしょうか?
 近くに、弓でも真でも誰でもいいから知ってる奴がいれば、そう訴えたい。
 自分の右隣には円花の姿。これはいつもの風景だ。
 そして自分の左隣には井上の姿。
 はたから見れば『両手に花』だとか言われるであろうこの状況だが……彗にとっては何故だろうか。
 二人の間には火花がぶつかり合っているような気がした。しかも、自分のすぐ目の前辺りで。
(俺が……何をしたんだ)
 鈍感故の災難と言ったところだろう。何も気付かないのが一番厄介な存在である。

続きます