初めてのでーと 第四話

 ――失敗した。
 今更ながらに、昇神彗は後悔する。
 元々、恋愛風の映画だということは分かっていたはずだ。だからこそ、ある程度のものは覚悟していた。
 だというのに、やはり現実はそんなに甘いわけがなく……

 スクリーンでは、たった今、二人の男女が深い口付けを交わしている。もう、それはそれは目を逸らしたくなるぐらい、映像的にも少し大人っぽい表現も混じっていた。
 だが、それと同時に、この室内を見渡せば、いくつかのカップルが映画に映っているものと同じように口付けを交わしているのが彼の目に見えた。
 幸いにも円花は、そのことには気付いていないようだが、代わりに……席に座ったときから握られたままの手に、少し力が込められていた。
 それに気付き、隣に視線を移せば、食い入るようにして、スクリーンの映像を見ている円花の姿が、目に入った。
 その目は、まるで羨望しているかのよう。スクリーンで行われるそれを、まるで羨ましがっているかのように。
 そんな彼女を見て
 ――まずい。そう、思った。
 理性がとか、そういう問題じゃない。きっと、今、自分たちの視線が重なったら……ここにいるカップルたちや、スクリーンの恋人たちのような行動を、自分たちも取ってしまうだろう。
 彗は、そうなる前に、視線を彼女から逸らした。とは言っても、スクリーンにはその映像。辺りには、カップルたちというわけであって、どこに視線を逸らせばいいのか分からない。
 と……
「彗……さん」
 そう呟かれて、手に込められる彼女の力も、より一層強くなった。
 何故だろうと思い、視線をスクリーンに移す。
 そこには――ベッドに倒れこむ二人の男女の姿。
 それを見て、まずいどころの問題ではないと、彗は直感した。しかも、後悔すべきはそれを見てしまったということ。
 スクリーンに映る彼らと、自分たちの姿がまるで重なり合うように、彗の頭に浮かび上がる。
 ブンブンと頭を振っても、生まれたその雑念は消え去ることはない。彗と円花を隔てるものは、肘掛しかないのだから。
「……」
 無言のまま、彗は円花の手を握り返す。
 身体も心も――これで何とか満足してくれ。
 今の彼には、そう願うことしか出来ない。

 続く