初めてのでーと 第七話

「ふぁーすとふーど……ですか?」
「あぁ……」
 数十分に及ぶ試行錯誤の結果、彗がたどり着いた場所は……
 安くて早くてうまいで有名な、某ファーストフード店なのであった。
 ついでに、読者の勘違いを誘わないように説明しておくが、決して丼ものの店ではなく、ハンバーガーが中心の店である。
 ここでなら、千円弱を出せば、円花も満足して食べられることだろう。
「ほら、二千円」
 といって、財布からおじさんの顔(夏目漱石)が入ったお札を二枚、円花に手渡す。
 お金の価値が、最近少しずつ分かるようになってきた円花も、さすがにその判断は出来たらしく、不安げに目の前の彼を見つめる。
「これで、好きなだけ頼んで来い」
「いいんですか? こんなにも使って」
「これだけあれば、お前だって十分だろ」
「はい。それは、そうなんですけど……」
 気が進まないというか、そんな気分に円花の心は置かれていた。
「もう、いいから、気にするなって。さっさと並んで来い。俺は席を確保しておくから」
「あ、はい」
 そう言って、二人はその場で別れようとして……彗が、すぐさま立ち止まる。
「あ、円花。最後に一言言い忘れた」
「何ですか? 彗さん」
「セットメニューは頼むなよ。ジュースは家にあるからな」
 その言葉に、えー……と、少し不満げな表情を浮かべる円花。どうやら、セットメニューで頼むつもりだったらしい。
「って、それだったら、すぐに2000円なんかなくなっちまうだろうが!?」
「それはそうなんですけど」
「っていうか、さっきまで遠慮してたお前はどこにいった……」
「それとこれとは、別です!」
 どうやら、円花にとってセットメニューとは憧れ?の存在らしい。
 これで小食ならば、何ら文句はないのだが、彼女は偶然にも大食いなのである。
 はぁ……と、小さくため息をつきつつも、彗は彼女の言葉に返した。
「……じゃあ、一番安い奴のセットなら許す。それでいいだろ?」
「ありがとうございます。彗さん」
 嬉しそうににっこりと微笑む円花の顔を見て、彗も軽く頬を緩めた。いくら厳しくしていても、どうやら彼女には自分は優しいらしい。

「……二人はファーストフード店に入った」
「……」
「……どうする? 井上秋乃さん」
 道を行く人々の視線を一身に集めながら、柱の影から彗たちの動向を窺う真と秋乃の二人。
 どこから取り出したのか、真の手元には双眼鏡が一つ。そして、秋乃の手にも双眼鏡が一つ。これも、真のものである。
「……入るわ」
「……分かった」
 簡潔に真はそう答え、彼らの姿が完全に消え去ったのを確認して、先導するように店の中へと入った。
 秋乃も、ゆっくりな動きで、その後に続く。
 無論、気配という気配を消しての行動だった。


続く