初めてのでーと 第八話



「……にしても」
「……? どうかしましたか? 彗さん」
 彼女のプレートの上にあるものを見て、思わず彗はポツリと本音を漏らした。
「……いつも思うけど、よくそんなに食えるよな。お前」
 『ある意味で感心するよ』と、付け足しつつ、彗は彼女にそう言った。
「これくらいは必要なんですよ」
「必要って……。いくらなんでもなぁ……」
 自分のプレートの上のものと、彼女のものを見比べてみる。
 こちらには、ハンバーガーが3つ並んでいる。まぁ、食べ盛りの世代とは言っても、大体、ハンバーガー3個ほどで十分な人間がほとんどだろう。
 だが……それと比べて、彼女のプレートの上には、ハンバーガー十数個。
 いくら一番安いものとはいえ、これはいくらなんでも頼みすぎである。というか、円花がそれだけ頼んでいたときの、店員の表情といえば、納得できるものがあった。
 現に、今もいくつかの視線がこちらに向けられているのを感じる。
「一応、言っておきますけど、あげませんよ?」
「いや、いらないから」
「そうですか」
 そう言って、円花は一つのハンバーガーを手にとり、口に頬張る。食べ方は実に女の子らしいというか、可愛らしいのだが、やはり量が量である。
 世の中、見た目よりも質というが、いくらなんでもこれは見た目の時点で減点が入ってしまいそうな光景だった。
「……俺も食うか」
 そう言って、彗も彼女と同じようにプレートの上のバーガーを手にとり、半分近くを一気に口に入れた。
 温かい。さすが出来たての味といったところだろう。
 恋人らしい雰囲気は一切この場からは感じ取れない。
 しかし、彗はそれでも……
(ま、俺たちらしいな。こういうのも)
 そう考えるだけで、十分だった。
 こうやって円花と一緒に外食できるだけでも、彼にとっては十分であった。



「……」
 無言で頼んだポテトを頬張る。
 当然、目は彼らに向けたままだ。
「……井上秋乃さん。すごい不機嫌だね」
「そう?」
 そういう彼女の周りには、まるで負のオーラが纏っているようだった。
 当然、実際に彼女の周りにそんなものは存在しないのだが、真の目からみれば、そんなものが彼女から溢れているような、そんな錯覚にすら陥る。
 まぁ、目の前であれだけいちゃいちゃされてたら、そんな気分になるのも分からなくはないのだが。
「先輩たち、あんなにいちゃいちゃしちゃって……」
 ほら。案の定、こんな調子だ。
 しかし、真もそちらへと視線を向けてみるが、彼らはいちゃいちゃしているようには彼の目からは見えない。単なる食事を一緒にとっているだけのようにしか見えないのだが……。
「先輩……」
 クシャリと、ジュースを飲み干して空になった紙コップを、秋乃は片手で握りつぶす。
 秋乃の目には、彼らがどんな風に映っているというのだろうか。
「……」
 そんな秋乃の姿をみても、真は何一つ表情を変えることはない。彼も彼で、一体何を考えているというのだろうか。
 そんな彼らもまた、違った意味でやはり視線を向けられているのであった。
 無論、秋乃はそちらに集中しているせいか、そんなことには気付かない。
 真も真で、そんなことには興味がないのか、そのことをまったく気にすることはなかった。



続く