初めてのでーと 第九話

「これからどうしますか? 彗さん」
「そうだな……」
 ある程度の昼食を取り、ファーストフード店から外に出た二人は、その近くに佇みながら、そんなことを話し合っていた。
 とはいっても、彼に何らかの案があるわけではない。確かにデートをしようと誘ったのは彼だが、実際は映画を見て終わり……ということにする予定だったためだ。
「どこでもいいが」
 そう言って、彗は案がないことを、適当に誤魔化す。誘っておいて、実はもう何もする予定はありません。というのは、さすがに抵抗があるというものだ。
「どこでもって……言われても」
 逆に、そう言われた円花の側からしてみれば、それは急のことである。真剣に考えるのは、実に彼女らしいと思う。
「彗さんが行きたい場所はないんですか?」
「俺か? 特には……ないな」
「そうですか……」
 そんな彼の答えを聞いて、うーん……と円花は顎に手をおき、少し考え込む素振りを見せる。
 くさい台詞を言っても構わないというのならば、『お前と行けるならどこでもいい』と彗は、彼女に対して言いたかったが、さすがに彼の性分やその他色々なことがあってか、そんな発言をするまでにはいたらなかった。
「じゃあ、今度は私の行きたい場所に行ってもいいですか?」
「別にいいが、お前の行きたい場所ってどこなんだ?」
 彼は?マークを頭に浮かべながら、首を少し傾げる。
 映画は見たい見たいと言っていたのは、紛れもない事実だが、それ以外に彼女が行きたい場所があるとは彼は知りもしなかった。
 そんな彼の様子に、小さく笑みを浮かべながら
「ふふ……。それは秘密です」
 彼女は、面白がるようにそう言った。
「ふーん……」
 そんな彼女の反応を見て、『ま、楽しみにしておくか』と、内心、密かに考えた彗であった。

「……」
 道行く人が思わず振り返るような、どす黒いオーラをその身体に纏わせながら、秋乃は彼らの尾行を未だに続けていた。
「……すごい不機嫌だね」
「……悪い?」
 真以外の人間だったら、その一言だけで空気が凍りそうなほどの低い声。
 いや、真も顔や反応には出していないが、内心では、少しばかり恐怖を抱いているのかもしれない。
「死之神先輩……。昇神先輩をどこに連れて行くつもり……」
 彼女の視線は、一点に円花へと向けられていた。

「ッ……!?」
 強烈な殺気のような何かを感じ取り、円花はすぐさま身体を振り返らせた。
「ん? どうした?」
 突然の彼女の行動の訳が分からず、彗は彼女に向かって尋ねた。
「……いえ、今、何か」
 そう言われて、彗も後ろを振り返る。だが、そこは何の変哲もない街道。
「何もおかしいところはないみたいだが」
「そう、ですよね……」
 彗の言葉に促されて、円花は顔を元に戻す。だが、その顔は、まだ納得がいっていないようにも見られた。
「気のせいだ。気のせい」
 そんな彼女を安心させるために、彗はそう声をかける。
「そうだといいんですが……」
 彼の行動を嬉しいとは思いながらも、まだ円花は心の中の不安を拭いきれなかった。


続く