彗さんの口癖は『普通やるだろ?』だ。
 でも、彗さんの普通は絶対に普通のことだけじゃない。
 死神と戦うことだって普通。
 死神の命を救うことだって普通。
 使い方としては、とても矛盾している。
 だけど、そんな彗さんの言葉が私は大好きだ。
 その代わりその口癖の使い方次第で彗さんがとても大胆になるから、私は少し怖いです。
 少し前にもそんなことがあって…

 その日は、いきなり彗さんに強く抱きしめられて、そのまま唇を奪われて…
『い、いきなり何するんですか!』
『何って、論理的にか? 物理的にか?』
 ニヤリと笑いながら、彗さんは言います。
 彗さんにからかわれてるのが、自分でも分かります。
『ッ…。そ、そんなのどっちでもいいです!』
『急にしてくるのが多いのは、どっちかというと円花の方だと思うんだが』
『ッ…!?』
 彗さんの一言で、思わず私の顔は熱くなった。
 鏡がないから分からないけど、きっと今の私の顔は真っ赤だと思う。
 確かに言われてみれば、私からすることが…多いかもしれませんが。
『それに…恋人同士なんだし、普通やるだろ?』
 そんなことを言った彗さんは、何か言おうとする私の唇をもう一度塞いで…。
 その後どうなったのかは私からは言えませんけど…。

 とりあえず、彗さんの『普通』という言葉はあてにならないんです。
 特に二人だけでいるときなんて…、常に気をつけてないと…。
「何、一人でブツブツ言ってるんだ」
「え?」
 私が視線を後ろに向けると…そこにいたのは彗さんでした。
 あ、あはは…。考えたそばから、早速、危険な状況です…。
「い、いえ、少し考え事を…」
「ふーん…」
 …あれ? 彗さん、その表情、何か企んでます…よね?
 何やら、とっても嫌な予感がします…。
「それで、何を考えてた?」
「あ、えーっと…それは」
 彗さんの口癖について…なんて答えれば、どうなるか想像もつかない。
 現に、彗さんの表情がすっごく怪しくて、絶対に何か企んでますし。
「それは?」
 彗さんの顔にニヤリとゆがみます。
 うぅ…。どうすれば、いいんだろ。
「…弓さんって、何であんなに強いんだろうって考えてて」
 自分のことはダメ。彗さんのことも当然ダメ。
 となれば、弓さんのことなら…何とかなる…と?
「ふーん…、弓のことか…」
 あれ? 彗さんの顔に青筋が…。
 私、何か変なこと言いましたか?
「彗さん、どうかしました…かッ!?」
 私が声をかけると、彗さんはいきなり…
 私を廊下に押し倒しました。
 驚く私をよそに、彗さんは私の上に覆いかぶさって…
「あ、あの…彗さん、いきなり何を…」
 彗さんは答えません。
 不機嫌そうな顔をして、私を見つめます。
 思考が追いつきません…。
 私、弓さんのことを考えてたとしか…。
 ひょっとして…彗さん。
「…ひょっとして、嫉妬…ですか?」
「ッ……。あぁ、そうだ! 悪いか!?」
 ヤケになって彗さんは言い返してくる。
 彗さんには失礼だけど、その姿は見ていて面白かった。
 それと嬉しかった。
 何ていうか、彼にも独占欲みたいなものがあるんだなぁ。って思って。
「…んじゃ、早速円花には俺のことしか考えられなくなってもらおうか…」
「…って、何でそうなるんですか!? それにさっき言ったことは本当のことじゃなくて…。それに、今はまだ夜じゃなくて…」
「関係ないな。弓のことを考えていた罰だ」
「だ、だから違いますってば!!」
 必死に弁解したところで、彗さんはまったく聞き入れない。
 …結局、私はその後、彗さんに食べられてしまいました。
 …これから、彗さんの前では嘘もつかないことにします。
 
終了