迅伐ちゃんのお薬講座

 コポコポコポコポ……
「…迅伐。何を作ってるんだ?」
「身体にとってもいい飲み物」
 鍋の中でかき混ぜられる”何か”。
 色は…なんというか凄すぎて言葉では表現できない。
 とりあえず、見た目からして物凄いやばいものだと思ってくれれば十分だ。
 とりあえず、分かること…。
 身体にいいはずがない!!
「…とりあえず、材料を聞こうか」
「…まずは、…珍しい草」
 ほうほう。珍しい草か…。
 ごめん、決して偏見ではないんだが…。
 迅伐の取ってくる草は、全てやばい!と考えてしまうのは俺だけか!?
「へ、へぇ…。じゃあ、他には?」
「…魚介類のダシ」
 魚介類のダシ…か。
 へ、へぇ…ダシ…ねぇ。
 色からして、本当にまともな魚介類か!?
「突っ込みどころが満載なんだが…他には?」
「…果物」
 あぁ、果物ね…果物…。
 そんなもの煮るなよ!?
「迅伐、質問していいか?」
「…何ですか? ライル様」
 迅伐の口からオーケーがもらえるわけがない。
 それを分かっていて、俺は質問をする…。
「…皆の安全のため、廃棄していいか?」
「…ダメ」
 迅伐の回答速度、約2秒…。
 迅伐にしては、かなり早かったな…って、そうじゃなくて!!
「ライル、何やってるのよ?」
 そこにマリエッタが現れた。
 俺は、ちょいちょいと鍋の中身を指差す。
「うっ…。こ、こんなの…前にどこかで見たことがあるわ」
「マリエッタからも頼むから、何か言ってやってくれ…」
 そういうと、迅伐は表情を不安げにして、俺たちに言った。
「…せっかく、ライル様のために、作ったのに…」
 ヒューーーーーー。
 冷たい風が、俺の体を通り抜けた感じがした。
「あ、あら、そう。ライル、あんたのために作ってくれたんだから、最後まで責任を持たなきゃ。じゃ
、じゃあねー。私は何も見なかったことにするわ」
「ちょ、ちょっと待て!! 迅伐もそんな顔をするな!!」
 まずい…まずい…。
 このままでは、俺がこれを飲むことになってしまう。
 そればかりは洒落にならないので、俺は迅伐に言った。
「まともなものだったら、嬉しい。だが、その色を見て素直に喜べる奴がいるか!!」
「……」
 迅伐はシュンッと顔を俯かせた。
 そんな姿が、どこか儚げで…って、違う!!
「ダメだダメだダメだ!! 絶対に飲まない!! だから、迅伐も…」
「……ライル様…」
 うっ、ぐ……。
 飲んではいけない、飲んだらまともな目に会わない…。
 分かっているはずなのに、分かっているはずなのに…迅伐の不安そうな表情を見ていると、断るに断
れない…。
 あと、俺に呼びかける弱々しい儚げな声が…俺の心をさらに揺り動かす。
 マリエッタの姿を探すが、俺の気がそれている間にとっくにどこかへ行ってしまったようだった。
 そんなとき、迅伐がキュッと俺の服の袖を掴んだ。
 た、確かに…可愛い。こんな行動をされたら、可愛く感じてしまう…。
 …って、そうじゃない!!
「…うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 全力を出して、俺は迅伐が掴んだ袖を離そうとする。
 だが、男の俺でもピクリとも動かなかった。
「…ライル、様…」
 そして、俺に対するとどめの一発…。
 …ごめんなさい。参りました。
「…分かった。飲ませてもらうから」
 俺がそう答えたその瞬間、迅伐の顔に満面の笑みが浮かんだ。
 うぅ…こういう顔を見ているだけなら、確かに可愛いんだが…。
 …とりあえず、今は、この危険物というか、毒薬みたいなものを攻略するかが問題だった。


 そして、飲み干したその後2・3週間は、ライルの腹の調子が全然戻らなかったという。

終了