数時間でパン作りも終わり、二人は特にすることはなくなった。
 だが、もうそろそろ、鎮紅たちも起こさなくてはならない。
 二人だけの時間は、もうすぐ終わりを告げようとしていた。
「そろそろ、鎮紅たちを起こしにいくか」
「そうだね」
 器具などを全て片付けたとき、時刻は昼近くになっていた。
 集中すれば時間は速く過ぎるそうだが、まったくもってその通りだった。
「それにしても、二人ともよくこんな時間まで眠れるよな」
「いつもだったら、私もきっと寝てるよ!!」
「…それもそうだな」
 ライルは苦笑しながら、薙刃の言葉に反応する。
「そうだ! ライル、せっかくの休日だし、今日は皆でどこかに行こうよ!」
「え?」
 驚いたのはライルだった。
 ライルは、今日も、一日中、パン屋にいるつもりだった。
 しかし、薙刃はどこかに出かけようとした。
「…ダメ?」
 不安げな表情で、薙刃はライルを見つめる。
 そんな表情をされては、断ることなど出来るわけもないというのに。
「いや、今日は暇だったし。鎮紅たちが許可するなら、別にいいが」
「ありがとう! ライル!」
 薙刃は笑顔でライルに言った。
 ドキリと自然と心臓が高鳴った。
「その代わり、鎮紅たちの許可が下りてからだぞ」
「うん。分かってる!!」
 それから、薙刃の行動は早かった。
 まだ寝起き状態の鎮紅や迅伐に許可を取り、鎮紅たちは曖昧な返事でそれにオーケーした。
 後で、鎮紅と迅伐が
「そんなこと約束したっけ?」
 と言っていたが、それは薙刃の策略なのだから仕方が無い。
 しかし、鎮紅たちも聞いていないとは言っていながらも、どこかへ出かけるという薙刃の意見には賛成だった。
「とは言っても…何処に行くんだ?」
 ライルの問いに、薙刃は少し悩んだ様子を見せたが、すぐに答えた。
「えっと、それじゃあ、ここら一帯を散策しよう!」
「「おー!」」
 鎮紅と迅伐が、同時に賛同を示す。
 ライルもあまり悩んだ様子も無く、それに賛成を示した。
 どこかへ出かける、となればライルに出来ることは一つ。
 そう、三人のための弁当を作ることだった。
 いきなりだったためか、在庫にはいいものはあまりないが、それを使って精一杯作ろうと思った。
 ひょっとしたら、これが最後の三人での出来事になるかもしれないが。
 そう、不安を抱きながらも。

続く


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