ということで始まった、ライルたちの町の散策だが…。
 この町に長く暮らすライルたちにとって、『ここは知らなかった!』という新たな発見というものは、特にはなかった。
 いつも歩くような道を、いつもの3人と歩く。
 何一つ変わらない、いつもの日常。
 だというのに、今日はいつもとは全然感じるものが違っていた。
 見るもの、感じるものに、何故か新鮮味を感じてしまう。
「ライル、ライル! あそこ、寄ろうよ!」
「あら、いいわね…」
「(コクリ)」
 薙刃がライルの服の袖を引っ張りながら、一つの店を指差す。
 それは一軒の甘味処。
 薙刃だけでなく、鎮紅や迅伐も、薙刃の指差した店に興味を示している。
 甘味処にあまり寄らないライルは、その店がおいしいかどうかは知らなかったが、薙刃や鎮紅、迅伐がお勧めするぐらいなのだから、きっとその店はおいしいのだろう。
「…そうだな。そうするか。」
「やったー!」
 薙刃は身体一杯に嬉しさを表現して喜んだ。
「あと…」
「?」
 ライルの口から続いた言葉に、薙刃は『何かあるのかな?』と思い、首をかしげた。
「今日くらいは奮発する。好きなだけ食べていいからな」
「え? …いいの?」
 薙刃のみならず、鎮紅や迅伐もライルのその言葉に、さすがに驚いた。
「あぁ。今日くらい奮発したって、大丈夫だ。」
 ライルの言葉に、三人とも顔を見合わせあった。
(本当に大丈夫かしら?)
(ライル、無理言ってるんじゃないかな?)
(コクリ)
「って、ちょっと待て!? 何だ、その『今日のことで、生計が厳しくなるんじゃ…』っていう雰囲気は!?」
 三人とも口には一切出していなかったが、ライルは雰囲気でそれを読み取った。
 それを見て、三人とも『いつものライルだ…』とどこか安心した様子を見せた。
「それじゃあ、そうさせてもらおうかしら」
「うん。今日は一杯食べるよーーー!」
「…お腹一杯」
 三人の気合が入った表情に、ライルの顔に冷や汗が流れる。
(…ひょっとして、俺。言ってはならないことを言ってしまったとか…か?)
 生計は大丈夫。とか自信満々に言っていたが、それも安心できなくなってしまった。
 今更ながら、食べすぎはやめてくれ…とも言えないライルだった。

 先に結果を言っておこう。
 …三人に一切容赦はなかった。
 三人の満足した顔、そして店長さんの満面の笑み。
 それはきっと忘れられないものになるだろう。違う意味で。


続く

第十二話へ