4人が始めてお互いに出会った神社。
 先日、薙刃がこの神社への石段の途中で、涙を流していた場所でもある。
 ライルにとっても、薙刃にとっても、鎮紅にとっても、迅伐にとっても、ここはとても大切な場所。
 全ての始まりはここからだった。
 ここに来ることは誰かが選んだわけではなく、4人の足は最終的には、自然とこの場所へと向かっていた。
「ここに4人で来るのも、久しぶりね…」
 鎮紅が、ポツリとそう呟く。
 ライルたちは何も言わなかったが、全員、鎮紅と同じことを考えていた。
「初めて会ってからは…滅多に来なくなったからな」
「…嫌な思い出があったからよ」
 ここにきてしまえば、昔の思い出が甦ってくる。
 信頼していた人に裏切られたという、嫌な思い出を…。
 薙刃や迅伐もそうだったが、鎮紅は、一番そのことを怨んでいた。
「…でも、今は…」
「そうね。あのときのことは思い出したくないけど、もう気にしてないわ」
 迅伐の呟きに、鎮紅は笑顔でそう答える。
 時が経ったところで、嫌な思い出は一生残っていく。
 しかし、鎮紅たちは違った。
 あれからの数年間、ライルによって、信じるということに恐怖を感じなくなったのだから。
「鎮紅は、ライルにとっても感謝してるんだよね!」
 鎮紅に向けて言った、薙刃の言葉で、鎮紅はフッと微笑む。
「…本当にライルくんには感謝してるわ。ライルくんがいなかったら、特に私はずっと誰も信じることは出来なかった。でも、ライルくんは、私に信じるチャンスを与えてくれた。ライルくんに会ってなかったらと思うと、…ゾッとするわ」
「…別に、大したことをしたつもりはないし、あの時、薙刃たちは困っていた。それを助けるのは当然だろ。それに信じるチャンスを与えたのはたとえ俺だったとしても、そこから信じることに努めたのは鎮紅たち自身だろ?」
 ごくごく当たり前のことのように、ライルは言い切った。
 その言葉に、薙刃たち三人は笑顔でライルに言った。
「確かに当たり前かもしれないわね。だけど、それが当たり前に出来るってことが、ライルくんのいいところなの」
「うん。だから、私たちはライルのことが、心から信頼出来るんだよ?」
「ライル様のおかげ…」
 三人の言葉に、ライルはどこか照れくさくなった。
 それを誤魔化すように、ライルは石段の上の神社を指差す。
「…そ、それで、あそこに行くのか?」
「私は行く!」
 最も早く答えたのは薙刃だった。
 鎮紅はどこか悩んだ様子を見せて、ある意味意外な答えを言った。
「…私はパスするわ」
「鎮紅。お前…」
 やはり過去のことが…とライルは考えた。
「違うわ、ライルくん。さすがに、これだけの石段を登るのは、きつそうなのよ」
 あぁ、なるほど…とライルは納得するが、それが失礼なことだとはライルはまだ気付いていない。
「迅伐、お前は?」
 ライルが問いかけると同時に、鎮紅が迅伐の耳元に近寄って何かを囁いた。
 当然だが、ライルの耳には少しの声も聞こえてこない。
 そして、鎮紅が何かを囁き終わると、迅伐も首を横に振った。
「そうか…。何か企んでいるように見えるのは俺だけか?」
「気のせいよ、気のせい」
 笑顔で鎮紅は答える。
 それが寧ろ怪しい。
「…それじゃあ、薙刃と行ってくる」
「行ってらっしゃーい。気をつけてねー」
「うん!」
「…何を気をつければいいんだ」
 ブツブツと言いながら、二人は石段を登っていく。

「鎮紅ちゃん、あれでいいの?」
 ライルと薙刃の姿がすっかり遠くなってから、迅伐は鎮紅に話しかける。
「そうね。…こういう時ぐらい、二人だけにしてあげたほうがいいのよ」
 鎮紅は確かに企んではいたが、それは決してライルを陥れるためのものではない。
 寧ろ、ライルと薙刃を導かせるための鎮紅の行動だった。
 あの二人はお互いに心が通じ合っている。
 それだからこそ、現実を深く捉えすぎて…お互いがお互いに何も言えない。
 そんな状態が続いているのが、今の現状。
 そして今日、二人には…この状態を断ち切ってもらいたかった。
 そして、それが鎮紅の望みだった。
(ライルくんのことは好き…、でも、ライルくんの心は薙刃に向いている、そして薙刃も…。それなら、私に出来ることは二人の手助けぐらいしかないのよ)
 諦めるということは悔しいが、二人のためには仕方が無い。
 鎮紅は自分の視線を石段の上の神社へと向けていた。

続く


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