「……」
 ライルは、視線の先に教会を捉える。
 教会を眺めるその姿は凛々しく、まさしくエリートと呼ぶにふさわしい姿。
 道行く人が振り向くほど、その動きに無駄はなく、まるで完璧が服を着て歩いているかのよう。
 しかし、そこでライル”だけ”が教会に向かっているのだったら、皆がそう思ったかもしれない。
 その数は4。
 ライルの隣を3人の女性が並んで歩く。
 女性とは言っても、そのうちの2人は、まだ幼い子供のように見える。
 しかし、いくら女性が並んでいるからといって、決して和やかな雰囲気ではなく、ライルと同じ厳粛な雰囲気を漂わせるものだった。
 自分たちの姿を指差して、何かを言っているイエスズ会の人間がライルの視界に写る。
 しかし、4人はまったく気にはしない。
 ライルたちが、目指すのは、イエスズ会の上層部の人間のみ。

「こうして見ると、ライルくんってやっぱり”首席!”って感じがするわねぇ」
 教会に向かっている途中、ポツリと鎮紅が言葉を漏らした。
 うんうん。と薙刃と迅伐の二人も頷く。
 パン屋にいるときの彼の姿と、今の彼の姿は似て全然似つかないものだ。
 鎮紅たちが、素直にそう感想を抱くのも、仕方ないことだった。
「そうか? 結構普通だし、そんなことは、あんまり言われたことはないんだが」
 ライルは、平然とそう答える。
 それに、鎮紅は首を横に振って言った。
「そうねぇ。きっと、リタちゃんが、今のライルを見たら、すぐにでもライバル心を燃やしそうなくらいよ」
「…どれぐらいなのか、よく分かった」
 鎮紅の例え話に、ライルはため息を吐きつつ納得した。
 それほどまでに、鎮紅の例え話がうまいというのもあるが、リタの行動が分かりやすいというのもある。
 現に、薙刃たちも「そうそう。『勝負しなさい!』とかリタならいいそうだよね」「(コクリ)」と呟きあっている。
 と…
「先輩ー!」
 教会からライルたちに向かって、走ってくる一つの影を、4人は捉えた。
 警戒心などは一切存在しない。
 なぜなら、それはライルの後輩でもあり、少し前まで自分たちと行動を同じくしていたアルドだったからだ。
「久しぶりだな。アルド」
「久しぶりね。アルドくん」
「アルド、久しぶりー!」
「…久しぶり」
「久しぶりです。皆さん」
 5人の付近の雰囲気が一瞬だけ和やかになった。
 しかし、すぐさまそれは元に戻る。
「先輩、今日は…」
 アルドは、真剣な表情で、ライルを見つめ、問いかける。
 ライルの手元に、一切の荷物はない。
 ということは、イエスズ会に戻りに来たわけではないようだ。
 アルドは、ホッと軽く安心した。
「上層部の人間に、自分の望みを訴えようと思ったんだ」
 ライルの言葉に、アルドは驚いたような、納得したような表情を浮かべて、そして言った。
「へぇ…。イエスズ会に訴えてまで、戻るのを拒否するとは、先輩も成長しましたね」
「…違う。薙刃たちのおかげだ。自分では結局何も出来なかった、何も気付けなかった。でも、薙刃たちがいてくれたから、俺はきっとここに来ることが出来たんだ」
 そんなことないよ、と薙刃が言う。
 しかし、構わずライルは続ける。
「だから、俺は3人に感謝している。そして、そんな場所を俺は手放したくない。だから、俺はそのために抗ってみせる。」
 アルドは黙ってライルの言葉を聞いていたが、ゆっくりと口を開き、まずは3人を見て笑顔で言った。
「薙刃さん、鎮紅さん、迅伐さん、…先輩を導いてくれてありがとうございます」
 あたりまえのことをしだだけ…と3人は言う。
 その当たり前のことが、どれだけ嬉しいかだなんて、人によって変わるけど、嬉しいことには変わりは無い。
「先輩、マリエッタさんたちが教会で待ってます。急いだ方がいいですよ」
「あぁ。そうだな。悪い。アルド」
「いえいえ」
 そういって、ライルは教会へと再び足を動かせ始めた。
 と…アルドから薙刃に小さく声がかかる。
「薙刃さん」
「ん? 何?」
「先輩を、これからもよろしくします。先輩の未来のお嫁さん」
「えっ?」
 そういって、アルドは去っていった。
 何を言ったのだろうか、と思って、ライルが薙刃に近づく。
 なんでもないよ、と、薙刃は視線を向けずに答えた。
 ばれてしまわなかっただけでも、最高だ。
 だって、顔はきっと真っ赤だったから

続く


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