はたまたこちらは、教会の中。
マリエッタとリタは、今後どう訴えていくのかについての意見を互いに出し合い、相談しあっているところだった。
そんなところに
「マリエッタさん」
「リタ、どうかした?」
「あれを」
マリエッタはリタの指差した方へと目を向けた。
そこにいたのは、まさしく、今、自分たちが相談していた内容に関係する4人の中心人物たちの姿。
それは、ライル、薙刃、鎮紅、迅伐の4人だった。
リタはあちらに気付いたようだが、ライルたちは未だこちらには気付いていない様子だった。
「へぇ…」
マリエッタが4人の様子に、その中でも、特にライルの様子に対して興味を示した。
マリエッタは、ふと隣のリタに視線を移してみる。
マリエッタの想像では、リタは、いつものように敵対心を剥き出しにしながら、厳しい目でライルを見ていると思っていた。
だが、それは大きな間違いだった。
「……」
リタは、フッと小さく笑っていた。
やっぱり…、と、リタは、そんなライルの様子に、どこか懐かしさを感じているようにも見えた。
しかし、マリエッタは、自分の予想と大きくはずれていたリタの様子に度肝を抜かれ、言葉を失った。
「…リタ、どうして笑ってるの?」
マリエッタは、それしか尋ねることが出来なかった。
「え? 私、笑ってたんですか?」
「そうよ。小さくだけど」
リタの様子に驚いたのが、マリエッタだとすれば、マリエッタの質問に驚いたのは、リタだった。
本人は、笑ったことにまったく気付いていない。
だとすれば、リタの身体自体が、何かを感じ取って自然的に笑ってしまったのだろう。
「…だとしたら、懐かしかったんだと思います」
「ライルの姿が、ってことよね?」
「はい」
リタは坦々と続ける。
「私自身、ライルのあれほど真摯とした表情を見るのは久しぶりです。ひょっとしたら私は、パン屋に数年間いても、ライルのそういうところは、やっぱり変わってないんだな、って心の奥で思ったのかもしれません」
マリエッタは、真剣にリタの話を聞く。
懐かしい…。
リタが、そんな気持ちになるのは、仕方ないかもしれない。
確かに自分たちがパン屋に訪れてからも、ライルのあれほど真摯な姿は、一切見ることはできなかった。
そして、リタはライルたちのパン屋に来るまで、教会でのライルの姿が、彼にとって当たり前のものだと思い込んでいた。
だからこそ、最初のうちは衝突や食い違いが絶えなかった。
だが、リタもそんな内に、少しずつ今のライルの姿に納得していくようになり、今となっては衝突や食い違いなどは一切存在しないような域にまで到達していた。
「とりあえず、まだこっちには気付いていないみたいだし、声でもかけてみますか」
リタに提案するような形で、マリエッタはポソリと呟いた。
「そうですね」
リタも、それに頷く。
「おーい!」
マリエッタが大きな声を上げると同時に、ライルたち4人の視線はマリエッタたちへと向いた。
「マリエッタたちも来てたんだね」
「えぇ。最近は、ほとんど毎日よ」
「その様子だと、ライルくんのことに関してかしら?」
「まぁ、そんなところね。少なからず進展はあったんだけど、そこからがどうしようもなかったのよ。でも、今日で安心ね」
「…今日で安心?」
「そうよ。『当事者であるライル・エルウッドの意見が無い限り、その意見を通すことは出来ない』って言ってたのよ。でも、今日はライルがいる。これなら、上層部に『戻りたくない』っていう意見がきっと通るわ」
薙刃たちとマリエッタが、これからのこと、そして今までのことについて真剣に話し合っている。
そして、はたまた、マリエッタたちから少し離れたところでは、ライルとリタが机を中心に向き合いながら、話し合っていた。
「ここに来たってことは、決心がついたの?」
「あぁ、薙刃たちのおかげでだが。ちゃんとついたよ」
フッと、ライルは先ほどのリタのように小さく笑った。
リタは、そんなライルの様子に小さくため息をつく。
「何で、もっと早く決心できなかったの?」
「え?」
ライルたちの様子を見ていれば、すぐに不思議に思ってしまうこと。
それを、リタはすんなりと口に出した。
ライルが、ここでの生活に安心感などを感じていることは、はたから見ても一目瞭然だったというのに。
それで、失いたくない、とか思うのはあまりにも遅すぎたんじゃないか、と誰もが思ってしまう。
(まぁ…それがライルのいいところか)
だが、リタはライルのことを少なからず知っているからこそ、納得できる。
ライルは、感情面に関しては、何事も普通の人よりも1倍近く遅いことを。
そのせいで、判断の遅さに後悔する場面も多かった。
だけど、完璧人間と言われたライルにとって、そういう部分は人間らしさを表す大切な部分じゃないか、とリタは思っていた。
そして、ライルについて、もう一つ知っていることがある。
それは…一度何かを決め付けたときは、それを最後まで大事にする…という彼の性格も。
続く
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