「俺は、本当はここから去りたくない」
 ライルは本心を鎮紅と迅伐に告げる。
 鎮紅と迅伐は少し黙ったが、すぐに二人は笑顔になった。
「ライルくんから、その言葉が聞けて嬉しいわ」
「……(コクリ)」
「それでも、俺はイエスズ会に戻らなくちゃいけないんだ」
 ライルにその言葉が重く圧し掛かる。
 だが、鎮紅は笑顔で言った。
「でも、本当にそれは、絶対かしら?」
「え?」
 ライルは思わず驚いた。
 ジルベルトならば、まだマシも、ライルのような若者が上の人間に意見を言えるはずがない。
 第一、通ったとしても、ちゃんと聞いてくれるかどうかですら分からない。
 しかし、鎮紅は言う。
 上の命令は絶対かどうか。と。
「ガルシアさんたちの罪だって、私たちは軽くすることが出来たじゃない」
「…でも、あれとは訳が違うんだ」
「やってみなきゃ分からないじゃない」
「そんなことしたって、無理に決まって…」
 ライルの様子に、鎮紅は昔のように大きな声で叫んだ。
「諦めるな!って、いつも言ってるのはライルくんじゃない! どうして、そんなに弱気になるのよ!」
「ッ……」
 鎮紅の言葉に、ライルの心は揺れた。
 そうだ、冷静になって考えてもみれば何もせずに諦めるなんて…自分らしくない。
「私に『諦めたら全部終わりなんだ』って教えてくれたのはライルくんじゃない。それなのに、ライルくんはあるかもしれない可能性にまったくかけないで諦めようとしてる」
「違う。俺は…」
 俺は…とまで言って、ライルはどう答えようかまったく思い浮かばなかった。
 いや、正直に言えば鎮紅の言葉はライルの図星をついていた。
 何と答えればいいのか、まったく分からない…。
 そんなライルに、鎮紅は歩み寄る。
 先ほどの様子とは打って変わって、優しい表情でライルを見つめた。
「どっちが正しいとかなんて、私には分からない。でも…重要なのは決め付けられた事項じゃなくて、ライルくん自身の意思よ」
「……」
 ライルは黙って聞いている。
「ライルくんの意志が、ここに残ることだったら、抗ってみてもいいじゃない」
「……」
 ライルの心は、揺れていた。

続く


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