「…あら? もう、こんな時間?」
 鎮紅が窓の外を見つめると、ライルも窓の外へ視線を移す。
 外は夕焼け色に染まり、少し眩しいくらいだった。
 どうやら、相当長い時間鎮紅と迅伐と話していたらしい。
 夕焼けが終わると、夜はすぐにやってくる。
 しかし、未だに薙刃の姿はどこにもない。
「ライルくん、薙刃を探してきてくれないかしら?」
「え?」
 ライルは鎮紅の言葉に驚く。
 先ほどは、薙刃と会ってはいけない。と、鎮紅は言っていたというのに。
 しかし、鎮紅が薙刃を探すことを自分に頼んだ理由は分かる。
 このまま夜になってしまえば、薙刃が危険な目に会う可能性がある。ということと、鎮紅たちが連れて帰ってきても、ライルがそこにいるのでは薙刃はまた泣いてしまうかもしれない。
 しかし、ライル自身が行けば薙刃はどういう反応をするだろう。
 鎮紅はもう一度
「ライルくん、行ってくれないかしら?」
 と、ライルに尋ねた。
 ライルは迷わなかった。
「分かった」
 たとえ、薙刃が駄々をこねたとしても…ちゃんと受け止める。
 薙刃が何かを求めたら、ちゃんと答えてやる。
(結局…俺は皆に俺自身を止めてほしいのか)
 自分でそう考えると、ライルの顔に苦笑が浮かんだ。
「じゃあ、ライルくん。お願いするわね」
「あぁ。任せておけ」
 不安なんて感じさせない、自信が感じ取れる口ぶりでライルは言った。
 鎮紅の顔にもどこか安堵が浮かぶ。
「なら、行ってくる。」
「気をつけてね。ライルくん」
 ライルはパン屋から外へと出た。
 鎮紅と迅伐はライルに手を振り、それはライルの姿が見えなくなるまで続いた。

続く


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