「ライルは、やっぱり帰らないといけないの?」
その言葉でライルは、薙刃が自分の言っていることが単なる我侭だと分かっていて、行動していることに気付いた。
ライルは、思わず自分のことを愚かだと思ってしまった。
薙刃だって、もう誰かに頼ってばっかりの子供じゃない。
自分で物事を考えて、その場の状況を判断する能力ぐらい…とっくに身についていた。
それを自分は…単に薙刃がその場の感情だけで行動しているだけだなんて一瞬でも思って…。
薙刃にとっては失礼なことこの上ない話だった。
ライルは黙って薙刃のすぐ隣に腰を下ろして座った。
そのとき、薙刃は特に何も言わなかった。
「…分からない」
「えっ?」
薙刃の予想していたライルの言葉は、きっと肯定のものだったんだろう。
しかし、ライルの返事は曖昧な言葉。
肯定でもなく、否定でもない。
薙刃はライルへと視線を向けた。
ライルは石段に座りながら、そこから見える景色をボーっと眺めていた。
その表情からは、はっきりとしたものは感じ取れない。
感じ取れるとしたら、それはきっとライルの『迷い』なのかもしれない。
イエスズ会に戻るべきか、このままパン屋を続けていくべきなのか。
どちらかを手に取り、どちらかを捨てることなんて…出来るわけもない。
だが、いずれ結論は出さなければならない。
「私は…ライルにはずっとパン屋にいてほしいよ。だけど…強制は出来ないよ」
「薙刃…」
「きっと、鎮紅も迅伐も同じ気持ちだよ。私たちには、ライルを縛り付ける理由なんてないもん」
ライルはそうか。と答えた
「…とりあえず、帰るか?」
ライルの提案に、薙刃は小さく
「うん」
と、答えた。
二人は手を繋いで帰る。
その姿は…まるでいつまでも一緒を表すかのような当たり前のようで綺麗なものだった。
しかし、それはとてももろく…儚いものだからこそ、映えるものだとまだ二人は知らない。
続く
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