「見てみてー。ライル」
「それは、ひょっとして…」
 薙刃の手にあるもの。
 それは、ちょっとした顔の絵がついたパンだった。
 こういうのを以前見たことがあった。
「うん。薙刃パン第2号!」
 前回見た薙刃パン第1号(勝手に名づけさせてもらった)よりは、形もいいし、焼けた色もしっかりしていて、見た目だけならパンと呼べるものだった。
「結構、上手くできてるな。練習でもしたのか?」
「ううん。ライルの見よう見真似だよ」
 なるほど、毎日のようにパンを作っている自分の姿を見ていれば、少しぐらいはパン作りのことが分かるかもしれない。
「ライル。一つ、試食してくれないかな?」
 見た目もいいし、このパンを作ったのは薙刃だ。
 迅伐は確かに上手なのだが、安心して食べることは出来ないし。
 鎮紅は、失礼だが論外だった。
「分かった」
 俺はそう答えて、一つ薙刃パンを取り、口に入れる。
「…どう?」
「結構、うまいな」 
 これは決して煽ててたりするんじゃなくて、素直な感想だった。
 店に出しても、文句はあまりこないだろうと思うほどの味だった。
「本当ッ!?」
 俺の感想を聞いて、薙刃が嬉しそうな表情で問いかけてきた。
「あぁ。店にも置ける。凄いな、薙刃」
「えへへ…。ありがとう、ライル」
 嬉しそうな薙刃を見て、フッと自分の気持ちも明るくなった。
「それじゃあ、店に置いてくるねー!」
 と言って、薙刃は去っていった。
「薙刃もうまくなってる。…俺もがんばるか」
 薙刃に追いつかれないように、俺もがんばろう。
 そう、やる気が出た。

終了