「究極の選択問題ー!」
 部屋に入ってくるなり、薙刃は笑顔でライルにそう言った。
「は?」
 ライルは唖然…。いや、唖然と言う問題ではない。
 薙刃の勢いに完全に流されている状態に陥っている。
 と、薙刃はそんなライルの様子を気にした様子もなく、続ける。
「鎮紅のパンとアルドのパンー。食べるなら、どっち?」
 と、言いつつ薙刃はどこからともなく、二つパンを取り出す。
「ちょ、ちょっと待て。それはひょっとして…」
 ライルは思いっきり体を引かせた。
 先ほど、パンという表現を使ったが正確には間違っている。
 …一つはパンの形ですらないし、何と言うかもう一つは…液体っぽくなっている。
 ライルが体を引かせていると、薙刃は笑顔で言った。
「えへへ。アルドと鎮紅にね、お願いしたんだ。作ってって」
 あの二人のことだ。
 パンを作ってほしい。…などとお願いされれば、いつも以上に張り切っていたに違いない。
「いやいやいやいやいや、あの二人にそんなお願いをしなくてもいいから」
 ライルはとにかくあせっていた。
 …理由は簡単だ。
 どっちを食べたにしろ……腹を壊すのは間違いない。
 場合によっては…死が…
「とりあえず、食べるなら、ライルはどっちのパンがいいの?」
 薙刃は気にしずに、どんどん話しかけてくる。
「ま、待て。一応聞くが、それを食べる必要はないんだよな?」
 そう聞くと、薙刃は笑顔で…。
「ううん。二人ががんばって作ってくれたんだもん。食べてあげなきゃ…」
 …もう一度、確認するライル。
「…選んだ方をか?」
「うん。片方は私が食べるよ?」
 薙刃が片方のパンを食べる…。
 その言葉を聞いて、一瞬安堵したライルだったが、すぐに表情を一変させた。
「薙刃。お前は食べるな。絶対に食べるな」
 薙刃の瞳を見つめつつ、ライルは言った。
 自分が地獄を味わうのはいいが、薙刃にまで味あわせるわけにはいかない。
「えー。どうして?」
 薙刃は抗議の言葉を言う。
 …だが、そんなことまったく関係ない。
「どうしても、だ」
 と、そんな光景が繰り広げられている中…。

「くっくっく…。うまく行ってるかしら…」 
 マリエッタが居間で笑いに堪えていた。
「今頃、ライルくん。『薙刃が食べるぐらいだったら、俺が二つ食べてやる!』とか、言ってるんじゃないかしら」
 鎮紅も、同じように居間で笑っていた。
 そう、この二人はグルだった。
 今回のことをきっかけにして、ライルと薙刃を急接近させようとの目論見を企んでいた。
「…さて、ライルくんはどうでるかしら…」
「意外と…強引な手に出てるかもしれないわよ。例えば、口移しでお互いに食べてるとか…」
「はは…。まさか…」
 さて、…鎮紅とマリエッタの予測はどれがあっていたのやら…。

終了