洗濯物日和

いい天気の日は…洗濯物日和だという…。
快晴の空の下で、風に吹かれてそよぐ洗濯物。
…それを見ていると…何だか清清しい気分になる…。
何でかは分からない…。でも、そう思うのは…確かだ。

「ライル。洗濯物、干そうよ!」
 笑顔で薙刃が駆け寄ってくる。
 その手元には、洗濯籠…。
 恐らく…その籠の中に皆の服が入っているのだろう…。
「あぁ…。…というか、鎮紅はどうした?」
 …俺はキョロキョロと辺りをうかがった。
 いつもなら、洗濯物を担当しているのは鎮紅のはずだ。
 それなのに、今日はどこを見渡しても影一つ見当たらない。
「鎮紅なら、物干竿で朝頭打ったから、寝込んでるよ?」
「は?」
 …物干竿で頭を打った?
 そんなこと…いや、鎮紅ならやりかねないな。
 何もないところで、こけるぐらいだ。
 きっと物干竿で頭を打ったとしても、恐らく大したことじゃないだろう。
「頭痛い、頭痛い…って朝ずっと唸ってたよ」
「そ、そうか」
 返す言葉が見当たらないとは…このことだと思う。
 …本音を言えば、自業自得なのだが…薙刃の前でそんなこと言えるはずもない。
 それに、鎮紅だって痛がっている…。そんなことを言うのは、いくらなんでもかわいそうだ。
「それよりも…。早く干そうよ。」
 笑顔で薙刃は話しかけてくる。
 まったく…この笑顔を見ていると…モヤモヤとした心が晴れていくようだな。
「そうだな」
 そう言って、俺は薙刃に歩み寄った。
「はい。ライルはこっちに干してね」
 と言って、薙刃は4つの竿のうち、右側2本を指差した。
 どうやら、こちら2本が俺の担当らしい。
「分かった」
 そう、俺は答えてから、一つ目の服へと手を伸ばす。
「あっ! ダメ!」
「え?」
 薙刃の声に、思わず俺は一枚目の服を手放し、再び洗濯籠へと服は戻ってしまった。
 何か間違ったか? などと思いつつ、薙刃に俺は問いかける。
「ど、どうかしたのか?」
 …何かあるのか?
 いや、確かに…いくら薙刃や鎮紅たちの服だからって…女の子のは女の子のだ。確かに…問題はあるが…。
 だが、薙刃の答えは…俺の予想外だった。
「どっちが早く干せるか勝負しようよ!」
「…は?」
「だって、普通に干すだけだったらつまんないもん!」
 …何というか、薙刃らしいなぁ。と最初は思った。
 まぁ、確かに2人だし、竿は2本ずつだから…勝負するにはもってこいだが…。
「…とりあえず、勝負すればいいんだな?」
 俺のその問いに、薙刃は”うん!”と力強く答えた。
「それじゃあ、行くよ? よーい…どん!」
 薙刃の掛け声と同時に、俺たちは互いの洗濯物に手をかけた。

「やったー! ライルの負けー!」
「…くっ」
 結果は、薙刃の勝ちだった。
 いや、言い訳じゃないが…この洗濯籠の中はほとんど女物の服ばっかりだからな!? …そりゃぁ、抵抗があるもんだって…いくつかはあったし。
「ライル。こっちこっち!」
「え?」
 …いつの間にか薙刃は庭を見渡せる場所に座って、こちらに手を振っていた。
 …何やら一人で悶々としていた自分があほらしい…。
 とりあえず、俺は…薙刃が座っているすぐ隣に腰掛けた。
「こうやって洗濯物を見てると…清々しく感じるよね」
「…そう、なのか?」
「うん!」
 笑顔で薙刃は言う。
 清々しさ…か。
 考えたこともなかったな…。
 でも、風になびく洗濯物を見ていると…どこか開放感を感じる。
 それは…確かに分かる。
 …ひょっとしたら、洗濯物も喜んでるのかもな。