「起床ー!!」
 マリエッタの声がライルたちのパン屋に響く。
 皆、のっそりのっそりと部屋から眠たそうな顔を出す。
 だが、今日は少しおかしかった。
(あら?)
 起床を呼びかけたマリエッタも異変に気付く。
 朝には一番強い、というか、この中でしっかりしている方のライルの姿がない。
 顔を出してすらいないようで、ドアも閉まったままだ。
(仕方ないわね…)
 まだ眠っているのだろう、とマリエッタは考えて、ズカズカとライルの部屋のドアノブに手をかける。
 そして、ノックすることなくドアを開けた。
「ちょっとライル、あんたもさっさと…」
 と、マリエッタの動きが止まった。
「あら? マリエッタちゃん? どうかしたの?」
「マリエッタちゃん?」
 鎮紅と迅伐がマリエッタに声をかける。
 だが、そんなことはマリエッタの耳には届いていない。
 バッと後ろを振り向いて、もう一度顔を出した面々を確認してみる。
 …いない。
 つまり、あれは本物…。
「ライルがどうかしたんですか?」
 リタがそこに現れる。
「あー…あんたは見ないほうがいいわよ」
「?」
 マリエッタが、ライルのドアの前からどいた。
 そのから部屋を覗いた他の皆の行動がピシャリと止まった。
 リタにいたっては、硬直。
 鎮紅とアルドはほほう。と感心したような表情をして、迅伐にいたっては無反応。マリエッタにいたっては、やれやれ。と参った様子だった。
 しかし、ライルを除いて一人だけは反応がない。
 そして、その人物は…今、ライルの布団でライルと一緒に寝ているのであった。
 そして、その人物、薙刃はグッスリと幸せそうに眠っている。
 邪魔してしまったら、申し訳ない…と思うほどだった。
「…まぁ、今日ぐらいは眠らせてあげましょうか」
 マリエッタの提案に、皆が賛成した。

 後にライルが目を覚ましたとき、パン屋で一騒動起こっていたのは恐らく鎮紅たちのせいである。