「あの…」
「何?」
ライルは額に汗を浮かべる。
リタはそんなライルを冷めた目線で見つめる。
「いや、…どうして、こんなことになったんだ?」
ライルとリタの目線の前にはイエスズ会のテスト用紙。
そして、二人の右手には共に鉛筆が握られている。
「今更逃げるの?」
ライルにとってはわけが分からない。
そして、ある意味リタにとっては夢のようなことであった。
「…いや、そういうわけじゃないんだが…」
「…テスト中の私語は禁止」
「うっ……」
条件反射のようなもので、ライルは押し黙る。
…そう、リタとライルは勝負をしていた。
何をって言われれば、簡単なこと。
薙刃、鎮紅、迅伐はもちろん、マリエッタ、アルドですら追いつけないこの二人の学力をテストというたった1枚の紙切れの得点で競い合っていたのだ。
ライルは、ブツブツと何かを呟きながらも、その手は止まる気配がない。
リタもそれは同じことだった。
「すごいわね…」
二人のその様子に、さすがのマリエッタも驚いていた。
リタが首席と言われれば、いつもリタの様子を見ていれば、少なからず出来ることは分かる。
だが、ライルは…
「先輩も、いつもはボーっとしてますけど、こういうときは僕でも全然敵いませんからね」
アルドは苦笑して言う。
ライルは圧倒的な学力や成績で、主席となった。
今はのほほんとしているが、さすがに首席と呼ばれただけあって、その学力は伊達じゃない。
それに、リタが目標と定めていた存在だとも聞いた。
それが嘘だと思った瞬間もあったが、今なら実感が持てる。
(ライルに…勝つ)
それがリタの心境だった。
昔、自分にとってライルは、手の届かない存在にいる人間の一人だった。
だからこそ、自分はがんばった。
ライルに追いつこう、追いつこうと思って、ずっとがんばってきた。
そして、それを今日こそ実現させる。
そのために、自分はライルに学力勝負を挑んだ。
「……」
分からない問題だって、ないわけじゃない。
だけど…ライルは、私がそんな風に感じる問題でも、手が止まらずスラスラと解いていく。
それを見ていると、悔しい…。
まだ、自分はライルに追いつけていないのか…と思ってしまうから。
「ッ……」
絶対に負けてたまるか……!!
リタの手も止まることを知らなかった。
でも…本当は
ただ、単にライルにがんばったことを認めて欲しいのかもしれない。
と、リタは一瞬考えるが、そんなことはすぐさま脳内から削除する。
今は、テストに集中するだけだ。
「…おしかったわね。リタ。もう少しだったんだけど」
テストの採点が終わり、返されたテストの点数を見れば、ライルにはあと8点ほど足りない。
「でも、すごいですね。リタさん。先輩とほとんど同じレベルなんて…」
アルドは笑いながらも、リタの学力にはさすがに驚いているようだった。
マリエッタ自体も実際、驚きを隠せなかった。
この二人の取った点数は、マリエッタ自身もあまり取れない、本当に問題次第としか言えないような点数だったためだった。
でも、リタの顔はまったく満足していない。
「ま、まぁ…リタもがんばったんじゃないか?」
慰めのような言葉をライルはリタにかける。
だが、ほとんどその言葉に効果というものは存在しない。
寧ろ、その言葉は、リタの闘争心を増幅させる薬になった。
「…ッ!! …次は、負けない!!」
そういって、リタはスッと立ち上がって、部屋から出て行った。
「……先輩」
アルドが哀れみのような声と視線をライルにかけた。
「…馬鹿ね…」
「な、何でだよ!?」
この後、アルドとマリエッタの二人が大きくため息をついたことは言うまでもない。
終了