「ありがとう。ライルくん…」
 しばらくして、鎮紅が身体を離す。
「い、いや…礼を言われるようなことはしていないからな」
「ふふ…。やっぱりライルくんは、優しいわね」
「そ、そうか? ただ、困ってる奴を見ると…放っておけないだけというか…」
「その考えが優しさなのよ。…まぁ、人によっては大きなお世話になっちゃう可能性もあるんだけどね」
 クスッと鎮紅は、小さく笑う。
 先ほどまでの鎮紅が嘘のようだった。
 さっきまでの鎮紅はなんというか、ピシャッとした大人というよりも、甘える子供のようだった。
 それに先ほど言われた言葉…
『好きよ。ライルくんのこと…』
 鎮紅は、特に気にしていないように見えるが…恐らく自分の答えを求めていることは間違いない。
 だが、答えをすぐに出すことなんて不可能だった。
 鎮紅は薙刃たちと同じく…家族と同じような存在として今まで過ごしてきた。
 それだからか、鎮紅に対して今まででも愛情は持っているが、それはそーいう方面のものではなく、家族のような存在としての愛情だった。
 だから、今すぐ答えを出す…ということは決して出来ない。
 もし、出したとしても…それは返って曖昧な答えを出すことになり、鎮紅を傷つけることに繋がる可能性もあるからだ。
「鎮紅」
「何? ライルくん」
 鎮紅は、いつもの優しげな表情でライルを見つめる。
 どうやら、答えを急いでいる…というものではなさそうだ。
「さっきの答え…。1日、待ってくれないか?」
 ライルが言うと、一瞬鎮紅はキョトンとした表情をしたが…すぐにフッと笑顔になって
「分かった。…でも、何日かけてもらっても構わない。ライルくんの気持ちに整理がつくまで、私は待ってるわ」
「…悪いな。鎮紅」
 …本当に鎮紅に申し訳なかった。
 しかし、自分に出来ることは一つだけ。
 それは…ちゃんとした答えを出す。
 …それだけだった。

続く