「はぁ…」
 ライルは悩みに悩んでいた。
 ライルはそういう風に鎮紅を捉えたことがないというのは、あまりにも結論を出すのに厳しい前提条件だった。
 鎮紅に、まったく関心がないわけではない。
 寧ろ、どちらかといえばある方だと思う。
 それはわかっている…のだが
「はぁ…」
 前にも記した通り、ライルはそう考えたことがなかった。
 例えば、鎮紅が目の前で倒れたとする。
 当然、助けようと手を差し伸べるが…それは仲間としてだろうか。
 薙刃が、例えば目の前で倒れたとしても自分は助けるだろう。
 そして、薙刃をどうして助けるか…といえば、同じく仲間としてだ。
 こう、考えてみると…鎮紅も薙刃も同じように自分は捉えていることになるはず…。
 それなのに、どこか納得できない部分がある。
 そう、自分の中でも本当にそれだけか? …という部分が感じ取れてならないのだ。
 だからこそ、ライルは悩む。
 恋の病は治りにくいというが、そう考えれば恋に関する悩みも相当深い…という解釈が出来ることになる。
 悩むことは必要だが、ライルの場合は完全に深みに沈んでしまっている状態だった。
 と、そんなとき
「あら? ライルじゃない」
 ライルに声がかかる。
 ライルがそちらに顔を向けると、そこにいたのはマリエッタだった。
「マリエッタか。情報収集にでも行ってたのか?」
「まぁ、そんなところよ。相変わらず、ガルシアたちの手掛かりは掴めなかったけどね」
 悔しそうにマリエッタは言う。
 情報収集のエリートといわれるぐらいだ。
 その専門分野で、まったく歯が立たないとなったら、悔しがるのは当然だと思う。
 ライルは、そうか。と答え、再び視線を逸らす。
「何かあったの?」
 マリエッタはライルの様子がどこか変だと感じ取った。
 冷静にしているつもりでも、どこか落ち着きのない状態に見えてくる。
 会って数日の頃ならば、気付かなかっただろうが、数ヶ月一緒に暮らしているマリエッタには、それが分かった。
「いや、大したことじゃないんだ」
 大したことじゃない。
 ライルの口から、とっさにその言葉が漏れた。
 つまり、何かあった…ということは確定したということになる。
「あんたの様子を見てると、そんな風には見えないんだけど」
「…うっ」
 ライルの顔が、少しばかり歪む。
 しめた。とマリエッタは心の奥で思った。
 同時に、何やら楽しさがこみ上げてくる。
「あんたって、本当に分かりやすいわね」
「わ、悪かったな…」
「で、本当は何があったのよ」
 ライルは、最初は戸惑ったが…渋々マリエッタにすべて話すことを決めた。

続く