「先輩」
 廊下を歩いていたとき、ふと誰かから声が掛かった。
 振り向かなくても、誰なのかわかる。
「何だ? アルド」
 視線をアルドに向け、ライルは言った。
 アルドは、いつものように笑って
「何かお困りですね?」
「…やっぱり、分かるのか?」
 アルドの言葉に、ライルはため息をついた。
 マリエッタといい、このアルドといい、洞察眼があるんだろうか。
「先輩は顔に出て分かりやすいんですよ」
 心当たりのあることを、アルドにズバッと言われてしまった。
「そうか…」
 ライルの顔には、苦笑が浮かんだ。
「それで、どういうことで悩んでいるんですか?」
 アルドにここまで聞かれては、もはや誤魔化すこともできない。
 ライルは、マリエッタと同じようにアルドにもすべてを話すことにした。
「相談があるんだが…」

「なるほど…。鎮紅さんから告白されたんですか」
「あぁ…。でも、どう答えればいいのか、分からないんだ」
「確かに先輩は、昔は近づきにくいオーラが出てましたからねぇ」
 うんうん。とアルドは一人で頷き納得する。
「そうだったのか?」
 言われてみても、ライルには身に覚えがなかった。
「えぇ。優等生だった上に、あの性格ですからね」
「待て。”あの”って何だ」
 ライルが思わず突っ込みを入れるが、アルドは軽くスルーする。
「とりあえず、先輩にはそんな経験はなかったはずですし」
「あぁ…。って、答える前に決め付けるなッ!!」
 またもやライルが突っ込むが、やはりアルドはスルーする。
「…とりあえず、僕もマリエッタさんの意見に賛成ですね」
 急に真剣な表情になって、アルドは言った。
 アルドは続ける。
「でも、答えは早く出した方がいいと思います。鎮紅さんはきっと先輩の答えを聞くのが怖くなってると思うんです。その代わり、急ぎすぎて曖昧な答えを出すのはもっとダメです。そうなったら、鎮紅さんと今までのような関係は成り立たなくなるかもしれません」
 アルドの言葉を聞いて、ライルは納得するように頷いた。
 そして、感想のように一言言う。
「恋愛っていうのは…難しいんだな」
 そんなライルの言葉に、アルドは笑顔になって
「えぇ。でも、きっと先輩なら大丈夫ですよ」
 と、言った。

続く