「鎮紅」
 鎮紅の部屋のふすまを開ける。
 そこにはポツンと鎮紅がただ一人座っていた。
「あら、ライルくん」
 笑顔で鎮紅はライルを部屋に迎えた。
 しかし、どこか様子が変だ。
 答えを聞くのとかが関係なく、何か明るく振舞いすぎているような…そんな気がしてならない。
 しかし、ライルは気のせいだと思い、改めて話題を切り出す。
「鎮紅、この前のことなんだが…」
 話を切り出した瞬間、ビクッと鎮紅の体が震えた。
 やはりおかしい。
 鎮紅は何かを恐れているような気がする。
 しかし、それが分かったとしても、ライルは言い切らなければならない。
 このまま放っておく…なんてことは出来なかった。
「あのな、鎮紅。俺、あれから考えたんだ…」
「な、何の話かしら?」
 鎮紅の言葉に、ライルは唖然とした。
「え?」
 思わず声を上げてしまった。
 …ひょっとして、あれは鎮紅の冗談…だったのか?
「やぁね。ライルくん、あれは冗談よ。冗談。びっくりしたかしら?」
「……」
「ほら。私たちって家族みたいなものじゃない。だから、好きっていっても家族の一員として好きっていう意味で…」
「……」
 鎮紅の言葉を聞いても、不思議と怒りは湧かなかった。
 そればかりか、本人は気付いていないかもしれないが、鎮紅の目には涙が浮かんでいた。
 それを見れば、鎮紅は嘘をついているってすぐに分かる。
 そして、それを見た瞬間、ライルは自分の気持ちがスッキリとなった。
「だから、ライルくんは…」
 鎮紅に黙って近づいていく。
 鎮紅も後ろに下がろうとしたが、すぐ近くに壁があって逃げることは不可能だった。
「やだっ、ライルくん。さっきから冗談だって…」
 ライルがすぐ近くに来ても、鎮紅は嘘を言い続ける。
 そんな彼女が痛々しくてたまらなかった。
 ライルは、黙ってそんな彼女を優しく抱きしめる。
「あっ…」
 鎮紅は、すっかり大人しくなった。
 ライルはギュっと抱きしめる腕に力を込める。
 しかし、鎮紅は抵抗しようとはしなかった。
 ライルは鎮紅の耳元で囁く。
「…俺は、お前が好きだ。鎮紅。さっきまで分からなかったけど、お前の涙を見て分かった。俺は、そんなお前を見ていたくない。笑顔でいる鎮紅をずっと見ていたいんだって…。あと、お前がそんなに不安だったなんて…分からなくてごめん…」
「ライル、くん……。ごめんなさい、私こそごめんなさい。…ライルくんの答えを聞くのが怖かったの。今までの関係が崩れちゃうんじゃないかって。それだったら、一層なかったことにすればいい…。そう思ったの」
「鎮紅」
「改めて言うわね…。私もライルくんのことが好き。家族としてじゃなくて、恋愛対象として…」
 鎮紅はライルの背中へと手を伸ばした。
(鎮紅を、もう不安にさせたりはしない)
 そう、ライルに強く決心付けた。

終了