教えてほしい。
俺に……、私に……必要なものは何?
それは……きっかけ?
それとも……勇気?
それとも……。
分からない。何もかもが分からない。
お前が……、あんたが……どんなことを考えているのか。
この想いにどう答えてくれるのか……。
何も分からないのが、怖い……。
でも、それを分かってしまうのも怖い……。
分かってしまったとき、俺たちは……、私たちは……、どんな関係になっているのか。
クラスメイト? 友人? それとも……。
それでも……、俺は、私は知りたい。
お前が…、あんたが…、この想いにどう答えてくれるのかを。
もう、この想いを抑えていることなんて…できない。
もう、隠すことには充分耐えたはずだから……。
変わりたくない……。でも、変わりたい。
いつも迷惑をかけている俺が…、いつも意地っ張りな私が…。
怖い…。とても怖い……。
でも……、変わるためには言わなきゃいけない……。
弱虫と言われても、怖がりと言われてもかまわない。
我が侭だとか、自分勝手だと言われてもかまわない。
ただ……、彼女に対する想いが、彼に対する想いが……大きすぎるから。
守ってあげたい……。でも、それだけじゃない。
守りたくて……、とても愛しい……。
だから……、言おう。
この想いが溢れてしまわないうちに……。
この想いが伝えることができる間に……。
*START―あの日の約束―* そして始まる日々 第七話
机の上に突っ伏しながら、植木は必死に悩んでいた。
植木が悩むことは当然一つだけである。
今日、森に告白することは決めた。
問題は……、どうやって自分の思いを伝えるかだった。
(回りくどくというのは、ダメだろうしなぁ……)
いくつも告白の台詞を植木は考えた。
だが、いまいち植木にはピンとこなかった。
ある意味、プロポーズの次に勇気のいる言葉のはずだ。
それだけ重要な言葉となればいくら良い台詞でも、どこかおかしいと思ってしまうのが人間の心理である。
案の定、植木も授業中だということに関わらずずっと頭の中には森への告白の言葉で一杯だった。
植木からしてみればただ考えているだけかもしれない。
だが、それだけ考え込んでいるということは当然……他人からしてみれば完璧に上の空状態なわけで……。
「植木くん……。この問題解いてください」
「えっ?」
そんな植木の様子を見ていた先生は、授業に集中していないと思い、植木を当てた。
当然、植木は授業のことなど聞いていなかった。
植木はゆっくりと立ち上がって、言った。
「すいません……。聞いてませんでした」
静かだったクラスに、笑いが沸き起こる。
「まったく……。50分間ぐらいは集中しておけよ。座ってよし」
そういわれると、植木はゆっくりと席にこしかけた。
そのとき、ふと森が視線の中に入る。
森もやはりおかしかったのか、少しばかり笑っていた。
植木はそれを確認すると、自分のみっともなさにやり場のない怒りを感じた。
「……で、何で俺のところに相談に来るんだ?」
植木にちゃんと説明されたが、当然コバセンは納得しなかった。
今は部活の時間。
コバセンは偶然にもどこの部活の顧問でもないので、職員室にいた。
それを確認した植木が、職員室に来ているわけである。
「コバセンだけが頼りなんだ」
と、植木に言われてもコバセンは困る。
何せ、自分にもそんな経験はない。
告白の言葉だとかは、めんどくさかったから考えたこともないし……。
コバセンは煙草を出そうとするが、校区内で吸ってはいけないことを思い出し、煙草を出す手を戻した。
「まったく……。俺は恋のキューピットじゃねぇんだぞ」
「分かってる」
植木に即答されると、コバセンはガクッとなった。
「分かってるなら、相談に来るなよ!? 俺なんかより、佐野のほうがよっぽどいいアドバイスくれるんじゃねぇのか?」
そういうと、植木は携帯を取り出して言う。
「かけたけど、電源が切れてた」
「……」
佐野はあれでもちゃんとした性格の持ち主だ。
恐らく今は学校だから、携帯の電源を切っているのだろう。
コバセンは、これ以上つかれることはないな。とため息をつきたくなった。
「まったく……。さっきも言ったが、これはお前と森の問題だろ。」
コバセンの言葉に、植木は同意する。
「分かってるなら、そんなに考えなくたっていいじゃねぇか。よくわかんねぇけど、自分の気持ちを正直に伝えればいいだけだろ」
「自分の気持ちを……正直に?」
理解できていないのか、頭に?マークを浮かべた植木にコバセンは言う。
「植木。お前は森をどう思ってるんだ?」
植木は少し顔を俯かせてから、答える。
「それは……、あいつのことを守ってやりたいし、ずっとそばにいたいんだ……」
植木の言葉を聞くと、コバセンの頬がふっと少し緩む。
「それでいいじゃねぇか。守ってやりたい。そばにいたい。これだけで充分だろ。それ以上に何か必要なのか?」
コバセンの言葉に、植木は首を横に振る。
植木にだって、それぐらいのことは分かっていた。
「分かってんなら考える必要なんてねぇよ。お前が思っていること、正直に森にぶつけりゃいいだけの話じゃねぇか」
コバセンの言葉に、植木は強く勇気付けられた気がした。
正直に伝えればいいだけ……。
そうだ。何を迷っていたんだ、俺は。
ややこしい言葉なんて一切必要ない。
正直に自分の思いを、自分の願いを森に伝えればいいだけ。
何で、こんな単純なことを思いつかなかったんだろう。
「ありがとな。コバセン」
「礼言われるほどのことをしたつもりはねぇよ。それよりもこんなとこにいるぐらいだったら、とっとと森探しとけ。先に帰っちまったなんて言ったら、問題外だろうが。ほら。分かったら、とっとと行きやがれ」
「……あぁ」
コバセンの言葉に植木は返事をすると、職員室を出て行った。
(まったく……。あんなに熱心に語っちまうとは……俺らしくねぇな。)
植木が出て行ったのを確認してから、コバセンは密かに煙草を取り出し、吸い始めた。
その顔は少しばかりいつもと違っていたという。
(とは言っても……)
勢いよく職員室を飛び出したのはいいが……、困ったことに気づいた植木。
そう。今は部活の時間。
実を言うと、植木は森の所属している部活を知らない。
いつも、植木が聞こうとすると
「べっ、別になんだっていいでしょ!」
と言って、教えてくれなかった。
(運動系……じゃねぇよなぁ。森は)
失礼にも、森に運動部……というイメージは植木の中になかった。
森は、植木からしてみれば文化部の人間のようなイメージが立っていたのだ。
だが、この学校に文化部は……実質あまりない。
茶道部、吹奏楽部、コンピュータ部、美術部、技術工作部、科学部……。
などなどあるが、どれも森がいそうな部活はなかった。
(そういえば……)
もう一つだけ、何か部活がこの学校にはあったはずだ。
植木の記憶にも、学校案内パンフレットを読んだときに小さく片隅に書いてあったような覚えがあった。
部員数が少なく、廃部寸前だと聞いた覚えもある。
確か、部活名は……
(文芸部……)
植木の頭の中に、部活の名前がくっきりと思い浮かんだ。
それと同時に、植木の足が進む。
行き先は決まっている。
そう……図書室だ。
続 第八話へ
森……。俺はもう逃げねえ。俺は……今日こそ