植木のドンと来い!ラジオ

「こんばんは。皆さん。今日も植木のドンと来い!ラジオの時間がやって参りました。」
「えー、主演は…」
「…って、主演!? 司会よ! 司会! 何にも言ってないのに、ラジオドラマ始めようとしないでよ!?」
「いや、結局やるんだし、別にいいじゃん」
「…まぁ、そうだけど」
「じゃあ、今日は、約束通りっていうかなんていうか、ラジオドラマを行うことにします」
「はい。編集長の方針がちょっと変わったみたいで、急遽そうなってしまいました」
「そうなって…って。森、嫌そうに言うなよ…」
「…そ、それもそうね。ごめん…」
「…じゃあ、今日の物語は…『嫉妬する植木』です。…って、俺が嫉妬?」
「…あぁ、なるほどね。で、役はどうなってるの?」
「とりあえず、二人は決まってるだろ。植木役は当然俺で…」
「そうね。で、森役が…」
「少年Aだろ?」
「誰よそれ!? どこのエキストラがヒロイン役を演じるのよ!? しかも、性別違うし!」
「じゃあ…編集長?」
「…いや、普通に考えて、私でしょ。っていうか、私以外ありえるの?」
「…そうか?」
「語尾を上げるな!? で、他の役柄は?」
「男子生徒Aと、女子生徒Aだ」
「ふんふん。それで?」
「全員、編集長が演じるそうだぞ」
「…は!?」
「考えてもみれば、俺たちと編集長しか今このスタジオにはいないわけだし」
「…って、編集長もよくやるわね…そんなこと。まぁ、いいわ。やりましょうか…」
「おう」

ラジオドラマ『植木の嫉妬』 第一話

「植木!」
 聞きなれた声が、俺を呼ぶ。
 毎日のように聞いているせいか、もはやそっちを見なくてもそれが誰かなんて分かる。
 でも、俺は声が掛かったほうに顔を向ける。
 どうしてか…って? 決まってる。そいつの顔が見たいからだ。
「森か…」
 嬉しさはまったく顔に出さない、寧ろうんざりとした様子で。
 そんな顔をして、森が怒る様子を見ているのも、俺にとっては楽しみの一つだった。
「何よ、その顔は!! 『あー、また来た』とかでも言いたいわけ?」
 ほら、やっぱり怒った。
 森の反応はいつも正直だし、ことあるごとにきちんと反応してくれる。
 怒ったり疑いの視線を向けたり、拗ねたり…そんなもんだから、毎日見ていても全然飽きてこない。
「…別にそんなこと思ってないぞ」
「…本当に?」
 森が俺に疑いの視線を向ける。
 こんなことも、あたりまえのような毎日の光景。
 でも、当たり前の影には必ず森の存在がある。
 森がいなければ、俺には当たり前…がないかもしれない。
「あぁ」
 森が俺の目をジーッと見つめる。
 口々にボソボソと何かを呟いていたが、俺の耳には届かない。
「…まぁ、いいわ。それよりも、伝えたいことがあるのよ」
「…ん? 伝えたいこと?」
 …なんだ、伝えたいことって?
 愛の告白…いや、自分を過信したらダメだ。
 それに、第一森にこんなところで告白するほどの勇気があるとも思えない。
 …なんてことを森に言ったら、恐らく顔を真っ赤にして怒るだろうけど。
「再来週、期末テストでしょ?」
 そう言われて、俺は…先生が確かそんなことを言っていたなぁ。と、そんなことを思い出す。
「あぁ、そうだな」
「それでよ、あんた、一人だけじゃきっついだろうから、私が今週からあんたの勉強を手伝ってあげようと思ってるんだけど」
 …一人じゃきっついって、俺、そんなにも信頼されてないんか。
 恐らくこの誘いは、森の世話焼きの性格から生まれたもの。
 それ以外の何でもないなんてことは分かっているのに…やっぱり嬉しい自分がそこにはいた。
「…じゃあ、頼む」
 森は、俺の言葉にどこか満足した様子で、首を縦に振って、一人満足していた。
 …恐らく、断る理由すらない…ということも、森には伝わってないんだろうな。
 と、そんなときだった。
「あいちゃん、ちょっといい?」
 いつの間にか、森のすぐ後ろに女子生徒が1人立っていた。
 恐らく森の友達だろう、と俺は思う。
「何? アキちゃん」
 そう言って、森はその女子生徒のほうへと顔を向ける。
 その途端、どこか寂しさが俺の胸にこみ上げた。
 森がすぐそこにいるっていうのに、寂しいなんておかしい。
 そんなことを自分に言い聞かせても、やはり寂しさを感じてしまう。
 ただ、友達と話しているだけなのに、森を女子生徒に取られたような感覚が俺に襲い掛かった。
「え? うん、分かった」
 森と女子生徒が二人で何を話しているかを、俺は聞き取ることができない。
 聞き取ることが出来るのは、森の反応だけ。
 しばらく話していた森は、突然俺のほうへと視線を向けた。
「じゃ、植木。そういうことだから…忘れんじゃないわよ」
 どうやら、森はその女子生徒とどこか違う場所に行くらしい。
 俺には、それを止めさせる理由はない。
「…おう」
 俺がそう答えると、森は女子生徒と一緒に教室を出て行った。
 行っちまった…と、俺の胸を再び寂しさが襲う。
 森があまりにも純粋だってことは承知の上だった。
 だからこそ、イライラしてしまう。
 以前、男子がこんなことを言っていたのを不意に思い出す。
(森ってさ、見ているだけでからかいがいがありそうで、しかも可愛いよな)
 そんな一言を聞いて、怒りと同時に焦りが生まれたこともあった。
 自分の思いと森の行動がまったく一致しなくて…それがもどかしくて、無性にイライラしてしまう。
 それが、意味のない”嫉妬”という感情だったとしても。
 いや、森からの意識がないのなら、”嫉妬”とも言えない。
 それはただの独占欲…。
(恋っていうのも、大変だな…)
 恋をしてしまったからには仕方がない。拒絶されない限り、諦めることなんて出来はしない。
「森…」
 俺はそう呟く。
 せめて、彼女にこの俺の想いが伝わるのならば、俺はどれだけ満足だろう。
 でも、彼女にはまだまだ届かない。
 俺の思いなんて…彼女のどこにまで達しているのだろう。
 不安で…仕方がない。
 でも、それを克服するのは…俺の勇気だけだ。

「…というラジオドラマでした」
「…俺の語りの部分が多いよなぁ」
「…っていうか、編集長わずか2個の台詞しかないじゃない!」
「…そのうちの一つは回想シーンだし」
「…って、愚痴ってもしょうがないわね。とりあえず、皆さん。どうでしたか?」
「満足してくれたら、この企画も続く…と思うぞ」
「…そんなこといったら、不安になるでしょうが!?」
「…悪い」

終了