バースデイ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ある夏の日、もう少しで植木の誕生日だと、森は植木の姉から聞いた。
 
誕生日といっても、植木が空から落ちてきた日だが・・・
 
植木と付き合って3ヶ月、はじめて森は植木の誕生日の日を知った。
 
しかし、まったく植木は教えようとしなかった。
 
植木のことだからすっかり、誕生日のことなど忘れているのだろう。
 
いや、自分にはないと思っているかもしれない。
 
それならと、森は植木を驚かせようと、佐野たちとともに、誕生会を開くことにした。
 
当然、植木には秘密である。
 
そこで、植木にあるものをあげようと森は考えた。
 
それから、森はあるものを毎日のように作り始めた。
 
(誕生日だから、プレゼントくらい作らなきゃ)
 
しかし、それを心配したのは植木。
 
毎日、行きに一緒に登校するとき、毎日のように、森の指の怪我がひどくなっているのだ。
 
心配になるのは当たり前。
 
「なあ、森。大丈夫か?」
 
「え?な、なにが?」
 
「だって、毎日のように、指の怪我増えてるぞ。おれに、手伝えることはないのか?」
 
「大丈夫だって・・・」
 
しかし、指の傷は増えていくばかり、植木の心配は募るばかりだった。
 
それどころか、最近では、森と一緒に登校することや下校することができなくなった。
 
それに、クラスでも、無視されることが多くなった。
 
(森のやつ、おれのことが嫌いになったのかな・・・最近、無視するし・・・)
 
声をかけても、振り向こうとしない。
 
もしかして自分に愛想が尽きたのかと思ってもふしぎではない。
 
しかし、なにやら森は、日がたつにつれて、嬉しそうな顔をしている。
 
そんな嬉しい日があったか?と思った。
 
まだ夏休みだって、遠いし、祝日もない。
 
森が指を怪我し始めてだいたい半月がたった。
 
休日だったので、家で休んでいると、家のチャイムがなった。
 
「だれだろ?」
 
あいにく、今日は植木の父は用事で出かけており、いなかった。
 
家のドアをあけた。
 
「はい」
 
「植木。よかったー。いてくれた」
 
「森!?どうしたんだ?今日、なんか用事があったか?」
 
「たしかに、大切なことならあるわね。それで、植木、鈴子ちゃんの家に来てくれない?」
 
その笑みがなぜかぎゃくに恐かった。
 
「やだ」
 
「なんで?」
 
まさか、断られるとは思っていなかった森は、驚いた。
 
「だって、今日いまから公園の掃除でもしようかと思ってたし・・・」
 
「いいじゃない。明日でも」
 
「そんなこといわれてもなー」
 
執拗に、聞いてくる森が何か隠しているとは植木は思った。
 
「じゃあさ、あとでいいものあげるから」
 
「え?」
 
森からの“いいもの”といわれて、なにを想像したのか、植木は受託した。
 
「んで、いつから行けばいいんだ?」
 
「なんで、そんなにも乗り気なのよ?まあ、いいわ。できれば、夜がいいわね」
 
「わかった。じゃあ、夜に行く」
 
夜になった。
 
約束どおり、7時くらいに植木は鈴子の家の前についた。
 
(やっぱりいつ見ても、鈴子の家はでかいよな)
 
豪邸中の豪邸といったところか。やっぱり鈴子の家はすごい。
 
大きな門の前に立って、チャイムを鳴らした。
 
「植木くんですか。どうぞ中に入ってください。」
 
すると、大きな門が開いた。
 
鈴子の家にはあまり来たことがなかったが、やはりすごかった。
 
やがて、鈴子の豪邸の中にある。鈴子の部屋(家)についた。
 
中に入るが、だれも出迎えに来ない。
 
いつもだったら、鈴子が出てくるはずだが・・・
 
おかしいと思いながらも、家の中に入った。
 
「おじゃまします」
 
「あ、植木くん。2階に来てください」
 
「ん。わかった」
 
鈴子の声が2階から聞こえたので、いわれたとおり、2階に向かった。
 
とはいっても、2階も広い。
 
どこを探せばいいのかと思っていたら、ドアの前に『植木くん。ここですわ』と書いてある紙を見つけた。
 
(準備がいいんだな)
 
森に呼ばれたものの、なにをするのかはまったく聞いていなかったので、何かをするのかとおもって部屋の中に入った。すると・・・
 
パン パパーン
 
いきなり両方からクラッカーの音がした。
 
「え?」
 
「植木くん。お誕生日おめでとうですわ」
 
「植木、おめでとさん」
 
「植木、遅いわよ」
 
「ぶっちゃけ、遅れすぎだな」
 
そこには、佐野と森とヒデヨシがいた。(当然、鈴子も)
 
「え?おれの誕生日?」
 
「はい。そうですわ」
 
「森からきいたんやで」
 
「でも、おれ、自分の誕生日知らないし・・・」
 
「お姉さんが教えてくれたのよ。植木の誕生日を・・・」
 
一度は呆然としていた植木だったが、喜びが湧き上がってきた。
 
「そっか。ありがとな。みんな」
 
誕生日といえば、プレゼントである。
 
「植木くん。わたしからはこれを・・・」
 
「おれからはこれや」
 
「おれからはこれだな。ぶっちゃけ金がなかったぞ」
 
三人は、それぞれのプレゼントを用意してくれた。
 
しかし、いつになっても一番期待している森からのプレゼントが出てこない。
 
(森はくれねえのかな?)
 
そんなことを思いながら、鈴子の家のご馳走を食べていた。
 
やがて、9時近くになったので、帰ることになった。
 
森と植木は同じ方角なので、一緒に帰ることになる。
 
しばらく会話がなかった。
 
静かに、二人で帰っている。
 
「ねえ。“いいもの”あげよっか?」
 
沈黙を森が破った。
 
「いいもの?くれるのか?」
 
「だって、あたしだけプレゼントしてないでしょ。ここだったら、あげれるとおもって・・・」
 
「ふーん」
 
「じゃあさ、目を瞑って」
 
植木は、目を瞑った。
 
そのとき、なにを想像していたのかはわからない。
 
「目を開けていいわよ」
 
すると、植木の手には大きな袋がかけられていた。
 
「なんだこれ?」
 
「お、おそろいの浴衣」
 
「え?」
 
それは、浴衣だった。
 
しかも、森と色違いのおそろいらしい。
 
「植木が喜ぶと思って、自分で、作ったんだから・・・」
 
森が指を怪我していた理由。それは浴衣を作っていたからだと、やっと植木は理解した。
 
「センキュ」
 
森は、植木に喜んでもらえたことが嬉しかった。
 
しかし、そのあとのセリフには予想していなかった。
 
「んで、これだけか?」
 
「へ?これだけって?」
 
「いいものって、これだけか?」
 
「まだ、足りないの?」
 
「いや、べつに・・・」
 
すると、森が気づいた。
 
「ひょ、ひょっとして、植木。なんかいやらしいこと考えてたんじゃないの?」
 
「な!なにいってんだ。そ、そんなわけないだろ」
 
どうやら図星らしい。
 
いいもので、目を瞑ってと聞けば、だいたいの男子はあることを考えるだろう。
 
「でもさ・・・」
 
「?」
 
森が、いきなりこっちを向いた。
 
「きょ、今日は、植木の誕生日だから、い、いいよ・・・しても」
 
「え!?」
 
「きょ、今日だけだからね。特別よ」
 
「いいのか?」
 
コクンと森は頷くと、目を瞑った。
 
「森・・・」
 
やがて、森の目には見えないが、植木の顔が近づき、キスをした。
 
しばらくたって、植木は、唇を離した。
 
「ねえ、植木。今度、この浴衣で夏祭りに行かない?」
 
「べつにいいぞ」
 
「じゃあ、約束ね」
 
「わかった」
 
二人は指きりげんまんをした。
 
夏祭りまで、のこり5日。
 
楽しみにして植木と森は5日間を過ごしていた。
 
この話は、また別の話で・・・
 
終了
 
 
 
あとがき
ゲボルハッ!!!!甘!!!
アンケート結果小説の誕生日ネタの小説できました。
甘い、バカップルって感じにしました。
ということで、夏祭りを続編に書こうと思います。
乞うご期待。
以上、朔夜でした!
 

2004年11月6日