意味のないもの

 

 

 

 

 

植木たちはたたかいを終えて、それぞれもとの生活に戻っていた。

 

植木と、森はそれから、よく一緒に学校に通うようになった。

 

それが当たり前の日常。外から見れば、もう友達や親友以上の関係だと思うだろう・・・

 

しかし、二人の仲はいっこうにそれ以上にならなかった。

 

理由は、ひとつは植木が、鈍感なこと。たしかに、植木にとって森は、友達や親友以上の大切な人という風には思っているのだが、それがどんな思いなのかはわからないから。

 

そして、もうひとつが、森が意地っ張りで恥ずかしがりやなこと。森にとって植木は、好きな人なのだが、いまさらいうのは恥ずかしいというべきか、恥ずかしくて伝えることができなかった。

 

そんな、二人を見るに見かねて佐野が、神である犬丸にあるものをもらいにいった。

 

「え?佐野くん。そんなものが欲しいのですか?」

 

「おう。いい加減にあいつらの仲を、進めさせたいんや」

 

犬丸が佐野に渡したもの。それは・・・天界に伝わる『惚れ薬』だった。

 

飲んだものは、飲んで、一番最初に見た人が、もともと好きな人の場合は素直に自分の気持ちを言うことができ、知らない人だと、一発で、心のそこから好きになってしまうという代物だった。

 

(よし、じゃあ、今度おれの家に植木と森を呼んで、それでこれを植木に飲ませたろ)

 

ということで、佐野はさっそく日曜日に自分の家に植木と森を呼んだ。

 

「佐野。なんだ、用って?」

 

「そうよ。佐野から呼ぶなんて珍しいじゃない?」

 

「まあ、座れや」

 

ふたりは席に座った。

 

「今日はな、飲み会でもしよかとおもって、おまえらを呼んだんや」

 

佐野は、とりあえず植木に何かを飲ませる口実を作ろうと、飲み会ということを理由にして、植木を誘った。

 

「飲み会ってあのね・・・あたしたちはまだ13歳よ。まだお酒なんて飲んだらいけないでしょ」

 

「そうだ。それにお酒は体に悪いって姉ちゃんが言ってたぞ」

 

「は?おまえらなにいっとるんや。今日は、ジュースの飲み会やぞ」

 

「は?」

 

ジュースの飲み会なんて、飲み会って言うのか?と二人は思った。

 

「おまえらのために、たくさんジュースかってきたんやで、飲んでってくれよ」

 

森は断ろうとしたが、植木が

 

「そっか。おれたちのために、買ってきてくれたなら、それは飲まなきゃな」

 

といって、了承してしまったので、森もしぶしぶ了承した。

 

といって、はじまったジュースの飲み会。

 

オレンジジュースとかコーラとかたくさんジュースが出てくる。

 

はっきりいって、冷蔵庫にこれだけしまえるのか?と思うくらいだ。

 

そんなことはあまり気にせず、植木はたくさん飲んでいたのだが、なぜか植木は、前においてあるピンク色のジュースには触れようとしない。

 

そのとき、森が少し席を離れていた。

 

「植木。それうまいんやで」

 

「そうなのか?でも、なんか他のジュースと違う感じがする」

 

植木の勘は鋭かった。

 

佐野は一瞬−ギクッ−とした。

 

そう、それはあの惚れ薬だったのだ。

 

惚れ薬といっても、そんなに万能ではない。

 

何かに混ぜたら効力がなくなってしまうので、そのまま飲むことしか効力がないのだ。

 

「まあ、飲んでみろや」

 

「あ、ああ・・・」

 

なにやら、やな予感をしながらも、植木はピンク色のジュースを飲んだ。

 

なにやら、お酒を飲んだときのような感覚がする。

 

いや、それよりも強いかもしれない。

 

頭がフラッとする。

 

「じゃあ、おれ。ちょっと、取ってくるもんあるから・・・」

 

といって、その部屋を出た。

 

「おう。でも、なんでこんなにもボーっとするんだ?」

 

なぜか動こうと思えない。

 

すると、森が部屋に戻ってきた。

 

「植木、佐野はどこに行ったの?」

 

すると、その瞬間、自分の顔が真っ赤になった。

 

(あれ?どうしたんだ、おれ?)

 

今までこんな気持ちになったことがなかった。

 

妙に、心臓の鼓動が早い感じがする。

 

「植木、聞いてる?」

 

「え。あ、ああ佐野か。さ、佐野なら、何かとりに行くっていってたぞ」

 

森を顔を素直に見ることができない。

 

なにやら、恥ずかしくなる。

 

(本当にどうしたんだ?おれ?)

 

「ねえ、植木。どうしたの?顔が赤いよ?」

 

森の顔が間近にあったことで、植木は一瞬で顔がさらに赤くなった。

 

「う、うわ!も、森。近くに来たなら、教えてくれよ」

 

本当に、どきどきしている。一体どうしたというのか・・・

 

植木の様子のおかしさに、森は一瞬、佐野を疑った。

 

(もしかして、佐野が植木に何かしたんじゃ?)

 

そして、佐野を探しに、部屋を出ようとした。

 

しかし、出ることはできなかった。

 

後ろから、植木に抱きしめられたから。

 

「植木!?」

 

いつもは、こんなことをしない植木に森も心臓の鼓動が早くなった。

 

「行くな!」

 

「え?」

 

森はいつもより大胆な植木の行動に、顔が真っ赤になった。

 

一方の植木も、言いたいことと違うことが言葉に出てしまって驚いている。

 

(い、いま、おれ。ゴメンっていおうとしたのに・・・)

 

抱きしめながら、植木は森の髪の匂いに気がおかしくなりそうだった。

 

(森の髪っていい匂いだな・・・って、なに考えてるんだ、おれは)

 

「あ、あのさ。植木、そろそろ離してくれない?」

 

植木はその声を聞いて離そうとするが、現実にはさらに強く抱きしめていた。

 

「ちょ、ちょっと植木、本当にどうしちゃったのよ?」

 

森は、もう周りの状況が目に入っていないようだった。

 

今、理解できることは、自分が植木に抱きしめられていることぐらいだろう。

 

徐々に、抵抗することもやめ、植木に抱きしめられたままになっていた。

 

強気なことは言っているが、本当は好きな人に抱きしめられていて、嬉しいのだ。

 

(できれば、このままいたいな)

 

いままで何も言わなかった植木が口を開いた。

 

「森、いやか?」

 

「べべべ、べつにいやじゃないわよ。ただ恥ずかしいだけ」

 

すでに、植木は自分を抑えるだけで精一杯だった。

 

なぜか、森の声や森の髪の匂いをかいでいると、意識が飛んでしまいそうでなにをするかわからない。

 

しばらくふたりはそのままだったのだが、森が思い出したように言った。

 

「あ、植木。そろそろ佐野を探しに行かなきゃ」

 

そのことばを聞いた瞬間、植木は自分を失った。

 

「なんでだ?」

 

「なんでって、キャッ」

 

植木は、森を床の上に仰向けに押し倒した。

 

「ちょ、ちょっと、な、なに?」

 

「佐野のほうが大切なのか?」

 

森に逃げ場はなかった。

 

両腕は植木ににぎられているし、体をおこすこともできない。

 

「そ、そんなわけ・・・んっ」

 

植木が、森の唇に自分の唇を押し付けた。

 

「おれ以外の男子をおまえが見て欲しくない」

 

唇を少し離ししゃべってから、植木はまたキスをした。

 

「んっ、ちょ、ちょっとま・・・んっ」

 

「かんちが・・・んっ」

 

勘違いといおうとしても、言うことができない。

 

なんどもなんども、植木に森はキスをされる。

 

しゃべることすらままならない。

 

最初のうちは、唇に押し当てるだけだったが、やがて、深いものとなっていく。

 

森の口の中に、植木の舌が入っていく。

 

「んっ。んん」

 

森は抵抗することもできないので、植木のされるままになっていた。

 

「ハーハー、ちょっと、うえ・・・んっ」

 

唇が少しはなれたときに、森は何かをいおうとしたが、すぐに唇をふさがれてしまった。

 

「ふっ、んん」

 

自分の舌と、植木の舌が混ざり合う感覚がわかる。

 

なんどもなんども深いキスを繰り返されているうちに、舌が麻痺していくのがわかる。

 

(苦しいよ、植木・・・)

 

呼吸があまりできないので、息苦しくなってきた。

 

でも、それでも植木はやめようとしない。

 

抵抗も最初からできるわけがなく、もう何分たったのかもわからなかった。

 

やがて、やっと植木が唇と手を離した。

 

「森、好きだ・・・」

 

「う、うん。あたしも・・・」

 

森は、少し息苦しかったが、答えを出した。

 

惚れ薬の効力は約2時間。

 

しかし、植木が唇を離したのはすでに植木が惚れ薬を飲んでから、2時間30分近くたった後だった。

 

本当は、植木も心の奥では森のことが好きだったのだ。

 

惚れ薬のおかげで、本当の思いがわかったのかもしれない

 

あとで、戻ってきた佐野に、惚れ薬のことを聞いて、二人が怒ったのはいうまでもない。

 

佐野の怪我は全治1ヶ月だそうだ。

 

おまけ

 

「植木って、あんなことがしたかったんだ」

 

「わるい。勘違いだったなんて思わなかった。なんか、森が佐野に興味があるって思ったらむかむかして、それで、どうせならって・・・」

 

植木は真っ赤になって、森に話した。

 

「ねえ、ひょっとして、あの“好き”ってこれを飲んでた効力で言った言葉?」

 

おもむろに、森は右手を見せた。そこに、あの惚れ薬があった。

 

「な!?んなわけないだろ」

 

「じゃあさ、ここであたしに好きっていえる?」

 

「え?」

 

森はすでに佐野から効力は2時間ということを聞いていたので、すこし、冷やかし気味に聞いてみた。

 

「やっぱりいえないじゃない」

 

「いいよ。言ってやる。おれは森のことが好きだ!」

 

「どれくらい?」

 

「この世のものでなによりも好きだ」

 

「やっぱり、この効力じゃなかったんだね。よかったー」

 

森は植木の胸に飛び込んだ。

 

「当たり前だろ。それに・・・

 

「?」

 

『こんなもの使わなくたって・・・・・・おれはおまえのことしか見えてないから』

 

「植木・・・大好き!」

 

終了

 

 

 

あとがき

ああ、書いちゃいましたよ。とっても甘い小説!

これは、間違いなく裏へGO!ですね。

これはちょっと、リクエストとしてはどうでしたでしょうか?

ナミダさん充分満足していただけましたか?

以上、朔夜でした。

2004年11月29日