「あっ。植木、あんたどこの高校に行くか、決めた?」
 自ら進路希望の紙を見ながら、頭をゴシゴシとかいている植木に、森がいきなり話しかけた。
 ん? と言った様子で、植木は森を見る。
「いや、まだだけど…」
 その言葉を聞くや否や、森は胸の前でポンと手を叩き安堵した表情になった。
「よかったぁ…」
 何がよかったのか、ちっとも分からない植木は、傾げた顔をする。
「…何がよかったんだ?」
 …と、ここで植木はピーンと何となく勘付いた。
(ひょっとして、森。俺に同じ高校に来い…とか言うんじゃないだろうな?)
 …しかし、あの森がまさかこんなところでそんなことを言うだろうか。
 いやいや、分からない…。
 人間、決心をするといつもとまったく違ったものになるらしいし。
(…って、そんな期待をしてたらだめだ。ダメだな…)
 うんうん。と密かに植木は心の中で納得した。
 そんな植木の心情を知らずに、森は口を開く。
「いやね…あんたが行こうとしている高校が、本当にあんたが行ける高校なのか…ってことを知っておこうと思ったのよ」
「…は?」
 …まったくの予想違いだった。
 …心配なんて、何もされていないような気がする…。
 いや、若干されているかもしれないが。
「…ほら。植木、あんたの学力だと…大体これぐらいの学校がいけるわね」
 と、言うや否や、森は鞄から紙を取り出した。
 そこには、いくつかの高等学校の名前。
 そして、タイトルには『植木の行ける学校予想帳』と書いてある。
「…これは?」
「ふっふん…。聞いて驚きなさい。これはね、私が数日前からいろいろな情報網を利用して調べた、高等学校のデータ集よ!」
 えっへん! と言った様子で、森は誇らしそうに言う。
 植木は、とりあえずそれに目を通してみた。
 …平均合格点数、平均偏差値、重視される科目など…その項目は8項目ほどあった。
 さすがに、これは賞賛に値するだろう。
「…センキュ。悪いな」
「いいのよ。いいのよ。これぐらいはしないと…ね」
 …考えてもみれば、森には迷惑ばっかりかけているような気がする。
 …彼女のおせっかいな性格が、そーさせているのかもしれないが…。
 今度、お礼でも言おう。
 特に、この紙に一つだけマークのついた学校に行くことにした。って伝えることにしよう。
 …まぁ、このマークが、どんな意味を込めたマークなのかは…分からないが。

終了