鍵穴

鍵穴っていうのは…世界にいくらでもあるもの。
どこの家にもあるものだし、…近代の遺跡にも鍵穴というものはある。
でも、どんなに鍵穴があっても…、その鍵穴に合う鍵は…世界にたった一つだけ。
その鍵がなければ、鍵穴は…自分の役目を果たさない、永遠に一人ぼっちだ。
例えば、その鍵穴があなただとして…あなたという鍵穴に世界でたった一つ合う鍵があるとしたら…それは私だって、思ってもいいですか?

「何ていうかさ…」
「何?」
「…お前ってやっぱり変わったやつだな…」
「…それ前も言わなかった?」
「…言ったか?」
「…言ったわよ。それも何回も」
 はぁ…と呆れた様子で植木を見つめる。
 植木はそんな私を見て、苦々しく苦笑する。
 はっきり言えば、”変わったやつ”なんて言葉、失礼極まりない…。
 ”変わったやつ”=”変なやつ”って考えてもしょうがなくない。
 …っていうか、それを何度も繰り返す植木も植木だと思う…。
「…いや、だってさ…お前だけじゃん。クラスの女子の中でまともに話しかけてくるのは」
「それは…あんたが”女子に好かれる才”を無くしたからでしょう…」
 …植木の様子に、また私はため息をつきたくなる。
 でも、それはちょっと失礼だとか思って、呆れるだけにしておいた。
「…だからって、殴る蹴るの暴行は…”嫌われてる”の限度すら超えてないか?」
 苦笑しつつ、植木が言う。
「それもそうね…」
 私も苦笑いしながら、そう応える。
 …そりゃぁ、植木がそう思っても仕方ない。
 失う前の女子の行動と、失った後の女子の行動とでは雲泥の差がある。
 というか、いくら嫌ってるからって…そこまでやるか…という行動さえある。
「で、俺は考えたんだが…」
「…何がよ」
 植木の考えはいっつもまとも…じゃない。
 戦いのときは、そりゃぁかなり尊敬できる言葉もあったけど…日常生活じゃぁ…そんなものはなかったりしないわけじゃないが、ない。
 とりあえず、期待せずに植木の考えを聞くことにしよう。
「…これって…、運命じゃねぇか? とか…思ってさ」
 …運命? ディスティニー? …その発言…どういう意味を込めてのものなの?
 ひょっとして、遠まわしの告白? それとも…赤い糸宣言?
 …あぁ。ダメだ。…何がダメかって言ったら、植木の発言にすっごく期待している自分の妄想が。
「…そ、そんなわけないでしょう!」
 自分では否定したつもりなのに、声がちゃんと上ずってる…。
 これじゃあ、照れてる…って思われるに決まってるわね…
「…いや、これでも結構考えたんだぞ。俺は…。そうだな…例えば…」
 あぁ…。何か喋り出しちゃってる…。
 長くなりそうだけど…仕方ない。聞いてあげることにしよう。
 まぁ、実際あんたとは…私も運命感じたりしてるわよ…。
 絶対に、言ってやらないけどね…。恥ずかしいし。