彼にとって、仲間という存在はとても大切なもの。
 仲間のためだったら、自分の命も放り出すほど、仲間を大切にして、自分のことは後回しにする。
 でも…、でも…例えば…。
 私が危なくなったとき、彼はすぐに助けに来てくれるのかな…と思うときがある。
 でも、そんなことを彼に尋ねたら
「当然だろ」
 仲間なんだから。
 そういうに決まっている。
 だけど…少しだけ彼に期待してしまう私がいる。
 もし、私がピンチになったときだけ、少しだけでも必死になってくれる…とか。
 少しでもムキになってくれるだとか…そんな些細なことを。
「森が危なかったから…」
 そんな彼からの言葉を、正直に言えば望んでいる私がいる。
 まぁ、そんなことは、実際にはありえないんだけどね…。
 私は、もう彼のことはほとんど分かっているからこそ、そんなことが予測できてしまう。
 どれだけ期待させるような言葉をかけられても、彼にとってはそれは当たり前のことで…そこには何にも特別な感情は込められていないってことが。
 以前だってそうだった。
 委員会が遅くなって友達が全員先に帰っちゃってたとき、彼だけは教室で待っていてくれた。
 私は、少なからずその時は、ドキッとした。
 ひょっとしたら…っていう、期待も抱いてしまった。
 だけど、彼にとって、それは「一人で帰ると危ない」という当たり前から生まれた行動に過ぎないことを後に知った。
「馬鹿だなぁ…」
 そう自分に呟く。
 何でこんな奴を好きになってしまったんだろう。
 全てが空回りしてしまうような厄介な人間のことを好きになってしまったんだろう。
 そう考えたこともしばしばある。
 だけど…今、私はこう思っている。
 こういう奴だから、私は彼のことが好きになったんじゃないか…って。
 誰かに特別…というわけじゃなくて、全員が彼にとっては特別。
 そんな優しさを持った彼の心とかが、きっと私は好きなんだと思う。
「馬鹿だなぁ…」
 また、私は自分にそう呟く。
 そんなことを思っているのに、実際は自分だけ特別に見てもらいたいなんていう独占欲があるくせに…。
 まったく…恋というものは、都合よく行かなくて、イライラして…
「ホント、やっかいよね…」
 そんなことを言っても、私の顔には不思議と笑みが浮かぶ。
 そんなことを思っているのに、それでも嫌にならない…。
 本当に、恋っていう感情は不思議だ。
「さてと、今日もあいつの公園の掃除でも手伝おうかな…」
 そう呟いて、私は机の横にかけてあった鞄を手に取った。
 
終了