無我夢中で
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
夏休みになり、植木と、森は海に来ていた。
 
余談だが、植木が森の水着姿に見とれていたことはいうまでもない。
 
植木の心の中では、かわいいとでも思っていたのだろう。
 
そのことは口には出さなかったが、似合ってる、とだけ言った。
 
森もその言葉に照れていた。
 
さて、泳ぎ始めた二人だが、植木の泳ぎが上手だった。
 
「植木、泳ぐのうまいね」
 
「そうか?」
 
植木が泳ぐのが速いのには、理由がある。
 
それは、『泳ぎの才』があるからだ。
 
そのため、水泳の時間では、クラスでトップクラスのタイムを取っていた。
 
「だって、あたしなんかより、かなりはやいじゃん」
 
「そりゃ、森には負けてられないからな」
 
女子にまで、負けず嫌いなのか?と森は思った。
 
そんなことを繰り返していると、いつの間にか、時間がかなりたっていた。
 
二人はだいたい、同じところで泳いでいたのだが・・・
 
植木と、森は少しの間、離れたところで、泳いでいた。
 
森がそろそろ暗くなってきたので帰ろうとして、植木が泳いでいたほうを見た。
 
しかし、そこに植木はいなかった。
 
(あれ?植木、どこいったのかな?)
 
植木の性格上、自分をおいて帰るわけがない。
 
だからといって、海の家などにいったわけでもないだろう。
 
あまり確信は無いのだが・・・
 
とにかく植木をさがしていた。
 
しかし、本当にどこにもいない。
 
(どこいっちゃったのかな?)
 
いつの間にか、客もかなり減っていた。
 
しかし、植木の姿がいっこうに見えない。
 
不安になり、海のほうを再び見ると、あることに気づいた。
 
(あれ?あれって、植木のゴーグル・・・)
 
いままで、無かったはずの植木がかけていたゴーグルが海の上に浮かんでいたのだ。
 
(だって、植木の姿見えなかったし・・・そんなことだったら、植木から外れて浮かんできたとしか考えられな・・・!も、もしかして!)
 
森は、急いで、ゴーグルが浮かんでいるところに向かった。
 
いままでなかったのに、浮かんでいたゴーグル。
 
つまり、植木がいなかったとなると、答えはひとつ。
 
植木が溺れて沈んでいるということだ。
 
(植木、生きてるでしょうね!)
 
ゴーグルを拾うと、まだぬくもりが残っていた。
 
急いで、海の中にもぐった。
 
ここの海は、ちょっとだけだが深いところがある。
 
植木がいるとすれば、そこだけだ。
 
(植木、どこ?)
 
もぐりながら、植木を必死にさがす。
 
しかし、海の中はすでに暗く、見えにくい。
 
(植木・・・あ!)
 
そのとき、森の目に見えた緑色の髪の色。
 
まちがいなく、植木だと思った。
 
急いでそこに向かった。
 
やはり、植木だった。
 
植木の体に触れると、少し冷たくなっていた。
 
ピクリとも動かない。
 
(急がなきゃ・・・植木が死んじゃう!)
 
急いで、植木を浜辺に運んだ。
 
運んだのはよかったが、すでに外は真っ暗だった。
 
すでに、客はひとりもいない。
 
ただでさえ、時間が無い。
 
おそらく植木は、大量の水を飲んでいるだろう。
 
森は、自分で助ける決意をした。
 
とはいっても、何をやっていいのかわからない。
 
まさか、植木がこんな目にあうとは思っていなかった。
 
(どうすればいいの?このままじゃ、植木が・・・)
 
あせりながらも考えていた。
 
すると、学校での授業を思い出した。
 
(あ!そういえば・・・)
 
一度だけ、海でのトラブル対策に、救助方法として、人工呼吸を練習したときがあった。
 
授業では、気道を確保しても呼吸が再開しない場合、肺に空気を送らないといけない。そして、その方法で最も効果的で簡単なのは、口移し法だと習った。
 
習った通り、気道を確認したが、意識は戻らない。
 
森は、植木を助けるため、唇に唇を重ね、空気を送り込んだ。
 
森にとっては、植木の唇に自分の唇を付けることなど、あまり気にしていなかった。
 
森の頭のなかには、すでに、植木を助けたいという、思いだけが支配していた。
 
植木を助けるためなら、何度でも、唇を合わせることができる。
 
(植木・・・死なないで!絶対に、生き返ってよ!)
 
しかし、いつになっても、植木の意識が戻らない。
 
それでも、森はあきらめず、人工呼吸を続けた。
 
(植木・・・はやく戻ってきてよ。あたし、植木がいなきゃ、やだ・・・)
 
目に涙があふれてくる。
 
そのとき。
 
ートクン トクンー
 
という、鼓動の音が少しだけ聞こえた。
 
(!?。植木、がんばって!!)
 
少しの希望が見えたので、絶望はどこかに消えた。
 
何度も繰り返しているうちに、
 
―ゲホッ ゲホッー
 
植木が、口から水を吐き出した。
 
もう少し!と、森が植木の唇に、自分の唇を重ねたとき。
 
「ん・・・も、森?」
 
「う、植木!!!植木!!!」
 
森は、自分が水着だということを忘れて、植木に抱きついた。
 
「ほ、本当によかった。う、植木が助かってくれて・・・」
 
森は、涙が止まらなかった。
 
「森・・・ごめん」
 
「え?」
 
「心配かけちまって・・・」
 
「いいよ。こうやって、植木が助かってくれたんだもん」
 
「森・・・」
 
植木は、すっかり冷え切った森の体を抱きしめた。
 
「こんなに冷え切るまで、助けてくれたのか?」
 
「え・・・うん」
 
「森、心配かけてゴメンな。おれ、足が攣っちまって、それで溺れたんだ。まわりにだれもいなかったから、助からないと思った。でも、森がいてくれた。森が助けてくれた」
 
「植木・・・」
 
「森、本当にありがとな。おれも、森のことをずっと助けてやるから」
 
植木が笑ってくれた。
 
森が見たかった顔は、この顔だったのだ。
 
(やっぱり、植木がいなきゃ、つまんないよ)
 
「おまえをおいて、絶対に、どこにもいかねえから」
 
「植木も、わたしを置いていかないでね・・・」
 
「当たり前だろ。おまえを置いていくわけ無いだろ。たとえ、どこかに隠れてても、探し出してやる」
 
「植木・・・ありがとう」
 
植木が自分のことを一心に思ってくれていることが嬉しかった。
 
助けられる自分、助ける自分。
 
両方とも悪くないと思った。
 
おまけ
 
「ところで、森・・・その・・・」
 
「なに?植木」
 
「さっき、おれが起きたとき・・・」
 
その瞬間、森の顔が真っ赤に染まる。
 
植木を助けたいだけで行っていたことだが、いざ植木に言われると恥ずかしくなる。
 
なにせ、簡単に言えば、キスをしていたということになる。
 
しかも、自分にとってはファーストキスだった。
 
「えっと、そ、それは、あんたを助けたかったからよ」
 
「そ、そうなのか?」
 
植木の反応が妙に引っかかった。
 
「べ、べつに、いやだったら、知らない振りしててもいいんだから・・・」
 
すると、植木に強く抱きしめられた。
 
「おれは、べつに森にキスされてもべつにいいから。それに、森からしてくれたのに、知らない振りなんてできるわけ無いだろ」
 
植木は顔を真っ赤にしながら、森に言った。
 
「植木・・・ありがと。ねえ、お願いがあるんだけど・・・」
 
「なんだ?」
 
「キスしていい?」
 
「な!?」
 
森から、このように言ってくることは初めてだった。
 
「だめ?」
 
「わ、わかった」
 
植木はドキドキしながら目を閉じた。
 
(ちゃんとした形で、キスしたかったんだ)
 
そんな森のつぶやきを植木は聞こえたか、聞こえなかったかはわからない。
 
森は、目をつぶって、植木の唇にキスをした。
 
やがて、二人は、目を開けた。
 
「じゃあ、今度は植木からして!」
 
「え!?」
 
「いいでしょ。べつに。どうせ、してみたいんでしょ。キス」
 
「な!?」
 
今日の植木は、森に翻弄されっぱなしだった。
 
終了
 
 
 
あとがき
森攻めかいてみました。あっまーい。
これは、まあ、裏かな?わかんないや。
ぎりぎりですね。まあ、かいてて、面白かったです。
こんなものもたまに書くといいですね。
以上、朔夜でした!

 2004年11月6日