お返し
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
植木耕助は悩んでいた。
 
「なににすればいいんだ?」
 
困っていたことは、そう、ホワイトデーに渡すプレゼントが決まっていなかったのだ。
 
(ホワイトデーって、なにを渡すんだ?)
 
バレンタインに、森からチョコとキスをもらった植木。
 
当然、お返しのひとつにキスは入れているのだが、渡すものが見つからない。
 
そもそもホワイトデーは、日本の菓子会社が作った日である。
 
外国に行くと、そんなものはない。
 
バレンタインも、同じようなものなのだが・・・
 
困りに困った、植木は姉に電話することに決めた。
 
「姉ちゃん。ホワイトデーって、なに渡すんだ?」
 
「そうね・・・あいちゃんが、欲しいと思ったものを渡せばいいんじゃない?」
 
(それがわからないから、困ってるんだよ・・・)
 
植木は心の中で思った。
 
「あ、耕ちゃん。わたし、用事があるから・・・」
 
「え!?ちょ、ちょっとま・・・」
 
ーガチャー
 
電話が切れた。
 
(なんだったんだ?いままでの会話は・・・)
 
結局、渡すものを知ることすらできなかった。
 
とにかく、考えることにした。
 
(森は、バレンタインにチョコを渡してくれたから・・・ホワイトデーには・・・もしかしてあれを作るのか?)
 
植木の頭にはホワイトデーに渡すものは、あれだと思い込んでしまった。
 
(そう考えてみれば、バレンタインとつじつまが合うし・・・)
 
ホワイトデーまで、あと2日。
 
 
植木は急いで、近くのスーパーに向かった。
 
そして、あるものを買ってきた。
 
(なるほど・・・こうやって作るのか・・・)
 
作り方を見ながら、さっそく作業に取り掛かる。
 
「初めて作るから、ちゃんとできるか?」
 
それから、植木は時間を惜しんで、あるものを作っていた。
 
しかし、失敗ばかりで、うまくできない。
 
(くそ〜。なんでできないんだ?)
 
この作り方が間違ってるのか?
 
それとも、自分が悪いのか?
 
植木は悩んでいた。
 
ホワイトデーまで、あと1日。
 
 
ホワイトデーの前日になった。
 
「どうすりゃいいんだ?」
 
植木は、困っていた。
 
相変わらず、あるものが作れないでいた。
 
その失敗の回数、15回。
 
ゴミ箱の中は、失敗作で埋もれていた。
 
森に頼むわけにはいかない。
 
だからといって、姉も出かけている。
 
(だれに頼めばいいんだ?)
 
佐野とヒデヨシも当然だめだろう。
 
(ん?あ!一人だけいた!)
 
植木は望みをかけて、電話をかけた。
 
ーガチャー
 
「もしもし、鈴子ですが・・・」
 
「あ、鈴子!おれだけど・・・」
 
そう、唯一の頼みは、鈴子だった。
 
「植木くん、どうかなされましたか?」
 
「じつはな・・・」
 
植木は、鈴子に事情を述べた。
 
「というわけなんだ・・・」
 
植木の説明を受けた鈴子はおかしくなった。
 
ホワイトデーといったらわたすものは、キャンデーなどなのに、植木はあれを作るという。
 
かなりバレンタインに渡すものが影響しているようだ。
 
(植木くん。間違ってますけど・・・がんばっているようですわ)
 
間違いと伝えるのも、かわいそうなので、鈴子は手伝うことにした。
 
「そうですか・・・では、そちらに今日参りますわ」
 
「センキュー。鈴子!」
 
「いえ、とんでもないですわ。では・・・」
 
「ああ」
 
ーガチャー
 
植木は思わずガッツポーズをした。
 
(鈴子が来てくれれば、完成できるかな・・・)
 
机の上にある材料を見て、植木は思った。
 
それからしばらくして、鈴子が来た。
 
当然、ゴミ箱の中の残骸を見て、言葉を失ったのは言うまでもない。
 
「じゃあ、植木くん。作りましょう」
 
「ああ」
 
とはいっても、鈴子はチョコレートは作ったことがあるが、あれは作ったことがなかった。
 
うまくいくのか、心配だった。
 
 
挑戦し始めて、5時間後・・・
 
「できましたわ!」
 
「やっとできた・・・」
 
やっとらしいものができた。
 
鈴子と協力しても、なかなかいいものは作れなかった。
 
「あいちゃんに、渡すんでしょう?」
 
「ああ」
 
「喜んでくれるといいですわね」
 
「鈴子、センキュー」
 
「どういたしまして・・・」
 
そうして、鈴子は帰っていった。
 
(森・・・喜んでくれるかな?)
 
明日は、ホワイトデー。
 
植木は、明日が来るのが待ち遠しかった。
 
 
ホワイトデー当日。
 
いつもよりはやく、学校に登校する。
 
今日は、森といっしょに行くのが恥ずかしくて、先に行くことにした。
 
(森のやつ、なんていうかな・・・)
 
プレゼントは、放課後に渡す予定だ。
 
学校に着き、かばんを片付けていると、森が入ってきた。
 
「おはよう。植木!」
 
「あ、ああ・・・」
 
いざ森に会うと、会話がぎこちなくなる。
 
「植木、どうしたの?今日、朝から変だよ」
 
不審に思った、森が聞いてきた。
 
「いや・・・な、なんでもない」
 
「そう?それならいいんだけど・・・」
 
そういって、森は席に着いた。
 
「フーッ。行ったか・・・」
 
森が、少し離れたので深呼吸をした。
 
まだ、手元にプレゼントがある。
 
ばれてしまっては、あれだけがんばったプレゼントの元も子もない。
 
(平常心、平常心・・・)
 
そう思いながら、授業にのぞんだ。
 
しかし、現実はそうは行かなかった。
 
ふとしたことで、森のほうに視線が向く。
 
今日は、いつもよりも森を意識していた。
 
(あぁー!なんでこんなにそわそわするんだー!)
 
森は、植木のそんな様子を少なからず、気づいていた。
 
ーキーン コーン カーン コーンー
 
やっと、今日のすべての授業が終わり、放課後になる。
 
(やっと、学校が終わったー!)
 
森にプレゼントがばれなかったので、ホッと一安心した。
 
そして、今日、最大の行事の下準備をする。
 
「森、いっしょに帰るか?」
 
「いいわよ」
 
森は実質気づいていた。
 
まあ、気づいていたといっても、今日はホワイトデーということだけだったが・・・
 
植木が落ち着いていなかったのは、おそらくホワイトデーだからだろう。
 
森は、そう思っていた。
 
学校から、少しはなれて、だれもいなくなったのを確認した植木。
 
(よし!いまなら・・・)
 
「森!」
 
「なに?植木?」
 
植木は、かばんの中から作ってきたものを出して、森に渡す。
 
「これって、ホワイトデーのプレゼント?」
 
「ああ・・・」
 
(森、気にいってくれるかな?)
 
森が、ラッピングの紙をはがしているとき、気にいってくれるか不安になった。
 
「これって・・・チョコレート?」
 
「うん」
 
森の表情が変わる。
 
(もしかして、嫌いだったのか?)
 
しかし、その後の森の行動は・・・
 
「ぷっ、ははははは」
 
突然、笑い出したのだ。
 
「どうしたんだ?そんなに変だったのか?」
 
「だ、だって、ホワイトデーにチョコレートを作ってくるなんて、おかしすぎて・・・」
 
「な!?も、もしかして違うのか?」
 
必死に、笑いをこらえながら説明をする森。
 
そう、植木はホワイトデーに、ホワイトチョコレートを作ったのだ。
 
キャンデーなどではなく、手作りの・・・
 
「いい。ホワイトデーはねキャンディーとか、そういうのを贈るもんなのよ」
 
(ま、間違えた・・・)
 
「でも・・・植木、ありがとね・・・」
 
「う、受け取ってくれるのか?」
 
「当たり前じゃん。植木がせっかく作ってくれたんでしょ。それに、植木のものなら、なんでも嬉しいわよ・・・」
 
照れながらも話す森。
 
「あ、ありがとう・・・」
 
顔を赤くさせながら、お礼を言う植木。
 
森は、チョコレートを食べ始めた。
 
「甘いね。これ・・・」
 
「甘いの嫌いだったか?」
 
ホワイトチョコレートということで、植木は砂糖をふつうよりも、多く入れた。
 
それが、甘くなったようだ。
 
そのせいで、森が気に入らなかったのかと思った。
 
「ううん。甘いの好きだし・・・」
 
その森のことばを聞いて、ホッと安心した。
 
(ホワイトデーなのに、森がいやな気分になったら困るもんな・・・)
 
不意に森の手にある、自分のチョコレートが目に入った。
 
「なあ、森。それ、ひとつくれないか?」
 
「え?べつにいいけど・・・」
 
自分のチョコレートをもらうというのは、なんだか変な感覚だ。
 
ーパクッー
 
「甘いな・・・これ」
 
「まさか・・・味見してなかったの?」
 
「ああ・・・」
 
鈴子に味見をしてもらったが、何にも言わなかった。
 
(鈴子は、甘党なのか?)
 
植木は、そう考えた。
 
「ねえ、植木。もっと甘いものはないの?」
 
「え?」
 
森から要望されるとは思っていなかった植木はあせった。
 
(もっと甘いものって、そんなもん用意してないし・・・)
 
植木がふと気づくと、森がすぐ近くまで来ていた。
 
「うわ!な、なんだ、森?」
 
「さっきのよりも甘いもの、くれないの?」
 
植木は悩んだ。
 
(そんなこと言われても、ないもんはないしな・・・)
 
いまから買いに行くわけにもいかない。
 
悩んでいる植木を見て、森がため息をついた。
 
「ねえ。植木、あたしバレンタインのとき、なんて言ったっけ?」
 
「え?たしか・・・・・・え?!!」
 
植木が思い出したのは、森が最後にしたこと。
 
(チョコよりも甘いものあげる・・・)
 
といって、森が植木にキスをしたのだ。
 
「思い出した?」
 
「あれでいいのか?」
 
「当たり前じゃん。でも・・・甘いものくれなきゃ、怒るからね!」
 
(おいおい・・・)
 
「わかったよ・・・」
 
終始あきらめながら、植木は森に近づいた。
 
森は、自然に目を閉じる。
 
(不意打ちしてやろうかなって思ってたのにな・・・)
 
植木だって、キスをしたかった。
 
しかし、まさか森から言われるとは思っていなかった。
 
そして、自分も目を閉じる。
 
そして、森の唇が触れた。
 
(甘い・・・)
 
森とキスをしていると、まるで甘さでとけてしまいそうだ。
 
それは、先ほどのチョコレートのせいかもしれない・・・
 
やがて、唇を離した。
 
「これでいいのか?」
 
すると、森は顔を横に振った。
 
「ううん。全然甘くないじゃない。もう一度・・・」
 
「な!?ま、まじで!?」
 
「ほら、文句を言わないの!」
 
そして、森は再び目を閉じる。
 
その顔は、強がっているようだったが、赤くなっていた。。
 
(森も、してほしいって言えばいいのに・・・)
 
そして、再び目を閉じる・・・
 
 
ホワイトデー。
男子が、女子にバレンタインのお返しとして思いを伝える日。
たとえ、なにがお返しの品でもいい。
あなたがずっとそばにいてくれることが、わたしにとって最大のプレゼントだから・・・
それはチョコレートなんかでは、返すことができない大切なもの。
 
終了
 
 
 


 
あとがき
ホワイトデー小説終了。
森がかなり性格が変わってますねーーー
これは、驚きです。
まあ、がんばりましたので、よろしくお願いします。
以上、朔夜でしたーー
 

2004年11月6日