理解

 

“放課後、屋上に来てください”

「何これ?」

 靴箱の中に入っていた手紙を開くと、そこにはそう書いてあった。

 宛名は書いていないから誰が出したのかわからないが、とりあえず屋上に来て欲しいそうだ。

「まっ、いっか」

 そんな軽い気持ちで、森はこの手紙の通り、屋上に行くことにした。

 

「おはよう。植木」

 森は自分より2つ前の席に座って……、いや、正確には寝かけている男。植木耕介に話しかけた。

「ん……。何だ、森か」

 眠たそうな視線を森へと向けながら、植木は言った。

 植木耕介、毎日こんな感じで二人は生活しているが、実はちゃんとした恋人同士になっている。ちゃんと、公式のカップルでもある。

「あんたねぇ、いっつも言ってるけど、そんなに眠いなら、ちゃんと家で寝てきなさいよ」

 朝、登校してくると植木が机に突っ伏しながら眠り呆けている。

 これ、日常茶飯事の光景である。

 そんな植木のあきれた姿を見ると、いっつも森は自分の性分のせいなのか、はたまた違うものなのか植木に注意する。

 だが、植木は一日経っては忘れ、また一日経っては忘れる。

 植木と森のこれに関してのいい合いは、まさしくいたちごっこだった。

「ん……。分かった。そうする」

 と、了承した植木。

 森は、ふぅ……。とひと息ついて席に戻ろうとした。

だが、再び視線を向けると、植木の鼻にはちょうちんがポワンと……。

「って、言ってるそばから寝るな!!」

 ガンッ! 森のチョップが植木の頭を直撃した。

「いってぇ……」

「ふん。何も分かってないじゃない。自業自得よ」

 何度言っても、分かってくれない植木についに森は呆れたのか、すぐに席へと戻っていった。

「……。分かってないのはどっちだよ。」

(本当は、構ってほしいだけなのにな……)

 植木は独り言のように、そう呟いた。

 

 はてさて、こんなことがある日は大体、時間というものは早く過ぎるもの。

 案の定、すでに6時間目の授業は終わり、放課後の時刻へとすでに時間は変わっていた。

「あいちゃん。一緒に帰ろ!」

 森の友達である、一人の女子生徒が、そう森に言う。

 どうやら、彼氏よりも友達のほうが一緒に帰ることは優先らしい。

「わか……」

 潔く了承しようとした森だったが、あることを思い出す。

(そういえば……、屋上に行かなきゃいけないんだっけ……)

「あいちゃん? どうかしたの?」

 一向に返事をすることなく、ボーっとその場に立っている森を不思議に思い、女子生徒が声をかける。

「ゴメン! 私、ちょっと用事があるから。先に帰ってて」

 胸の前に両手を合わせて、森は友達に謝りながら言った。

 その言葉を聞くと、女子生徒は納得したような顔をした。

「用事があるなら仕方ないよね。じゃあね、あいちゃん」

「うん。じゃあね」

 手を振りながら、女子生徒は教室を出て行った。

(今からでもいいのかな?)

 そう考え、森は教室を出ようとする。

「森」

 ふと森は誰かに呼ばれ、足をゆっくりと止める。

「あっ。植木、いたんだ」

 もう帰ってるのかと思った。

思い浮かんだ言葉はそれだったが、何故か口には出さなかった。

植木が森を見つめる視線が、どこか真剣さを帯びていて、そんな言葉を言ってしまっては落ち込んでしまいそうな気がしたからだ。

「用事が済んでからでいいから、一緒に帰らねぇか?」

 真剣な顔で見つめられ、思わず森は頬が少しずつ赤く染まってくる。

「う、うん。」

 思わず声も上ずってしまったが、そんな回答を聞くと、植木は表情をいつものような表情へと戻し、笑った。

 そんな植木の表情を見て、森は恥ずかしさの余り、呼吸ができなくなってしまいそうだった。

「そ、そろそろ行かなきゃ」

 そんな場から逃げるように、森は植木の顔を見ることなく、教室を出て行った。

 

 いくつかの階段を上り、森はこの学校の屋上へとたどり着いた。

 何も戸惑うことなく、森はゆっくりと屋上のドアを開ける。

 しかし、そこには誰の姿もありはしなかった。

(……。ひょっとして、誰かの悪戯だったとか?)

 自分は騙されたのか……。と思い、森は屋上を出ようとした。

 だが、そのときゆっくりと屋上のドアが開く。

 現れたのは、同じ同級生の男子の姿だった。

 しかし、森にとっては、それが誰なのか、名前すら浮かんでこなかった。

「ひょっとして、ここに呼び出した人ってあんたなの?」

「はい」

 森の問いに、男子生徒は答え、ゆっくりと森のほうへと歩み寄る。

 そして、男子生徒は森のすぐ隣まで近づいてきた。

「それで、何か用でもあるの?」

 相手が知らない人物だということもあって、森はすっかり拍子抜けしてしまった。

 考えていたことは、部活動について部長から何か言われるだとか、女子生徒から何かを頼まれるなどとかを考えていたからだ。

「えぇ。実はですね……」

 それは一瞬のできごとだった。

 急に腕を引っ張られたかと思うと、森の唇に男子生徒の唇が押し付けられた。

「んっ!……ん!!」

 そして、ゆっくりと両手が森の腰と手へと回る。

 突然の出来事に、森は男子生徒の胸辺りを両手でドンドンと叩く。

 だが、そんなことで腕が解けるはずもなかった。

(いやっ!! やめてよ!!)

 誰なのかすらもわからない人間にファーストキスを奪われ、森の目から拒絶の涙が溢れ出す。

 だが、それでも男子生徒は一向にやめようとしなかった。

 そのときだった。

 ガンッ! 金属を何かで叩いたような大きな音が森の耳に届いた。

 男子生徒にも届いたのか、さっと唇が離される。

「お前……。何やってんだ」

 低く響く声。しかし、それは確かに植木の声だった。

「うっ、植木!」

 森は持てる力を振り絞り、男子生徒の腕を振りほどき、植木の元へと走った。

 植木はというと手を握り締めて、今にも男子生徒に殴りかかりそうになっていた。

「ダメッ! 植木!」

 森は、植木の腕を掴む。

「森!? でも、こいつは……」

 思わぬ相手からの、差し止めに植木は思わず戸惑う。

「私だって、許せないわよ……。でも、こいつを殴っても植木にとっては何の得にもならないじゃない。」

「……。分かった」

 森の言葉に、植木は握り締めていた手をゆっくりと元に戻した。

 そして、ゆっくりと植木は自分の腕で森を抱きしめた。

 

 しばらくそのままでいると、その男子生徒がどこかに行っていることに森は気づいた。

「植木。そろそろ、離してくれない?」

 植木の顔がすぐ近くにあるのが、少し恥ずかしくなって森は植木に言う。

「やだ」

「やだって、ほら! もうそろそろ、帰らないといけない時刻だし」

 何とか逃れる術を見つけ出そうと、森は次々に提案する。

「関係ない」

 一言で否定して、植木は一向に森を離そうとしない。

(ど、どうすればいいんだろ……)

 森は、どうにかしてこの場を逃れようと、次の提案を考える。

「森は、俺とこうしてるのが嫌なのか?」

「えっ!? いやっ、その……」

 思わぬ植木からの質問に、森は言葉を詰まらせた。

 はっきりいって、嫌ではない。恥ずかしいだけなのだ。

「……別に嫌じゃない」

「そうか……」

 恥ずかしそうに森が答えると、植木は満足そうな顔をした。

 そして、腰に回している手に力を込める。

「ホント、分かってねぇよな。」

 ボソッと小さく植木が呟く。

「な、何がよ?」

「お前さ、自分はモテないとか思ってるだろ?」

 確かめるような口調で植木は森に問いかける。

「うっ、うるさいわね!! ホントのことだからしょうがないでしょ!」

 そんな森の言葉を聞くと、植木は小さくため息をついた。

「はぁ……。やっぱり、分かってねぇな」

「だ、だから何がよ!!」

 呆れるような口調で繰り返す植木に、少しずつ森はイラついてきた。

(影でどれだけ俺が、努力してると思ってんだよ……)

 そんな植木の気持ちを知ってかしらずか、森は植木に食って掛かる。

「教えなさいよ! 植木ってば!!」

 ……。ニヤリ。 植木の頭の中にあることが、浮かんだ。

「別に教えてやってもいいけど」

 植木の反応に思わず、森は顔を上げた。

 そのときだった。

「なっ!?」

 気づいたとき、森の唇には柔らかい感触が下りてきていた。

 ゆっくりと植木の顔が離れていくと、森は顔を真っ赤にさせる。

「って、いきなり何するのよ!!」

「キス。」

 何も動じることなく、植木は笑いながらそう言う。

「って、そういうことを聞いてるんじゃ……」

 何かを言い続けようとした森の唇に、再び植木は唇を合わせた。

 ドクンッと森の中で、大きく鼓動が打たれる。

「今まで我慢してたけど、もう許してやらない」

 最初の口付けとは打って変わって、徐々に貪るような口付けへと植木は変化させていく。

「……ん、ぅ……」

 深くなっていく口付けに、森の口から吐息が漏れる。

「お前がホントはモテてるってこと、俺がどれほどお前のことを大事に思ってるか、身体に刻み込んでやるから」

 植木と森。二人の関係はどこまで行くのやら……。

 

 終了

 

 

 あとがき

 ……。うわぁ。もう少しで裏行きそうな作品だなぁ。これ。

 っていうか、リクエストである嫉妬が入ってるのか? これは

 何か、とんでもないものを書いたような予感がするぞ……。

 と、とりあえず今回は、一つ目の採用作品かかさせていただきました。

 では、次もお楽しみにぃぃ!!