「…ごめん」
「…何がよ」
 顔にわずかな切り傷を残した森がぶっきらぼうに言った。
「いや…その、…酷い怪我させちまって」
 守ると決めた。
 それなのに…、彼女を敵の攻撃から守ることはできなかった。
 森本人は、「大した傷じゃない」などと連呼しているのだが…意外にもその怪我は深いらしく…一生傷が残る可能性もあるらしい。
 そんな傷をさせてしまった。
 守ると決めた彼女に…
「ばか…」
 ピンッと植木の額に森は軽めにデコピンをする。
「いてっ!」
 …大して強く打ったわけではないのだが、植木の反応は大きかった。
 デコピンされた額を摩っている植木を見ながら、森はふぅ…と小さくあきれるように言った。
「あんたのせいじゃないでしょ。…それに自分からこの戦いに加わるって決めたんだからね。だから、この傷も油断していた私のせいよ」
「森…。でも…」
 まだ続けようとする植木に、森は続けて言った。
「第一、私が植木に頼りすぎたのよ…。植木が絶対に私のことを守ってくれる…って、ちょっと安心しすぎたというか…」
 最初の頃は、勢いのある言い口だったが、最後の方になるにつれて、恥ずかしくなってきたのか、森の声が小さくなっていた。
「…森」
 植木はそんな森の態度を嬉しく思い、思わず彼女を抱きしめていた。
「ちょ、ちょっと! 植木!?」
 …するほうはかまわないかもしれないが、されるほうは突然だからたまったものではない。
 まぁ…それが嫌な相手だったら拒絶以外の何者でもないのだが、好意を持っている相手からだったら、嬉しい以外の何者でもない。
 …だが、その嬉しさを表面に現せるほど、彼女は正直者ではなかった。
「は、離しなさいよ!?」
「やだ…」
 森の頼みを一言で植木は断る。
「そ、そんなぁ…」
 …少々涙目になりながら、森は嘆いた。
 しかし…植木にとってはまったく無意味なことだった。
 そればかりか…方向性としては怪しい方向へ進むことになる。
「…離してほしいか?」
「…そ、そうよ」
 …なにやら植木の口元がニヤリと歪んだ気がして、思わず森は体を引こうとした。
 だが…それも無駄なことだった。
「…んじゃ、その傷…消毒させてくれたらいい」
「…へ?」
 と、植木がそんなことを言ったかと思った次の瞬間…
「ひゃっ!?」
 …傷口になにやらヌルヌルとした感触が襲い掛かった。
「…い、いきなり何を…」
「消毒」
「って、そんなの消毒じゃ…やっ…」
 森の恥辱心はますます増えていく。
 と、比例するかのように植木の気持ちも徐々に高ぶっていく。
「も、もういいでしょ?」
「いや、まだまだ…」
「もう…。馬鹿…」
 真っ赤になりながらも、森はやがて抵抗することをやめた。
 
終了