「ごめんなさい…」
「あっ…」
男子の横を走って通り抜け、屋上を抜け出す。
恐らく、まだ屋上では先ほどの男子が呆然としているか、ショックを受けているかのどっちかの状態だと思う。
でも…可哀相だと思っても、しょうがないのだ。
「…断ったら、可哀相だなんて思ったらダメよ…。うん、ダメ」
そう、自分に言い聞かす。
「…好きって言われても、困るのよ…」
今日の朝、私の机の中に呼び出しの手紙が入っていた。
最初、どういった用件だったのか、などとはまったく想像もついていなかった。
しかし、屋上に着いた瞬間…男子に「好きだ」と言われて…。
でも、私は首を縦に振ることなんて出来なかった。
決して、顔が悪かったわけでもない、まったく話したことのない相手だったわけでもない。
どっちかといえば、女子の中では人気のある男子だった。
はは…。どうして断ったんだろうね。私。
「おっす。森」
私が、そんなことを考えていると、ふと声が掛かった。
植木だった。
あの戦い以降、私たちはずっと親友で、同じ高校に通っている。
「出たわね。努力くん?」
そう、呼んで彼をからかってやる。
彼は、うっ…と顔を歪めた。
植木の努力を惜しまないその姿から、植木のクラスでは、植木のことをそう呼ぶらしい。
そして、それが自分のクラスにまで伝わり、伝染したということだ。
「やめろよ…。そのあだ名」
「そうは言っても、あんまり嫌そうに見えないわよ? このこの」
肘で、彼の腕を突いてやる。
彼の顔には、苦笑が浮かぶ。
楽しい…。植木と気軽に話せるこんな時間が楽しかった。
だが、そんな時間はすぐに終わる。
「わりぃな、森。俺、ちょっと用があるから」
「あ、そうなんだ…」
軽いショックを受けた。
まぁ、しょうがないんだけど…。
「どうせ、先生とかにでも呼び出されたんでしょう?」
冗談交じりで言ったこの言葉で、植木はいつものように苦笑するかと私は思った。
でも、それは違った。
「いや、何か分からんけど…女子に呼び出されてさ」
「え?」
言葉が続かない…。
何となく、想像が付いてしまう。
…しかし、『女子に好かれる才』がない植木に限ってそんなことはない。
…でも、最近女子は植木のことを見直してる。
もう、嫌っている女子だってほとんどいない。
「ど、どこに?」
聞きたくなかったけど、聞きたかった。
…矛盾したことばかり、考えてしまう。
「ん? 屋上」
屋上…。
私は、その言葉を聞いて、自分の想像が間違っていないことに気付いた。
「そ、そう。それじゃあね…」
「? おう」
私の様子を見て、植木は少し首を傾げたが、そのまま行ってしまった。
大丈夫…。動揺なんてしていない。
私たちは、親友なんだから、いつまでも一緒のはず。
そう、信じてる…。
でも、不安で一杯だ。
植木を、誰かに取られちゃうじゃないか。って。
…ねぇ。この不安って、一体何なの?
誰か、教えてよ…。
終了