チョコよりも甘いもの?
2月14日、今日はバレンタインである。
植木は、この日を楽しみにしていた。
たしかに、たたかいの後に、また女子に好かれる才が戻って、たくさんの人に好かれるようになった。
しかし、植木がもらいたい相手は一人だけである。
(森のやつ、早く来てくんねえかな?)
そう思いながらも、話しかけてくる女子を相手にしていた。
去年は、森からは、森いわく義理チョコをひとつもらっただけだった。
しかし、義理チョコのなかには、カードが入っていた。
そこには、『大好き』とだけ、書かれていた。
最初は、意味を理解していなかった植木だが、その後、森に告白されたので、付き合うことになった。
もともと、森のことは好きだった。
当然、OKしたのである。
それからというもの、二人は仲良く日々を過ごしている。
まわりからは、バカップルと言われているほど仲がいい。
毎日、行きも帰りも、いっしょに帰っているためである。
それどころではない。
休日もだいたい二人で出かけている。
まあ、そんなことは置いておこう。
去年とは大違いで、どんどん植木の机の上に増えていく、チョコ。
すでに、紙袋ひとつに納まりきらなかった。
(どうすっかな?これ)
後ろにも置けない。自分の席のとなりにも置けないとすればどうしようもなかった。
今日は、久しぶりに森といっしょではなかった。
なぜなら、昨日、森から明日はいっしょに行けない、という電話があったからだ。
植木は、少しショックを受けながらも了承した。
そして、いまの状況に至ったのである。
やがて、森が登校して来た。
しかし、森はチョコを渡す気配がなく、ただ
「植木、おはよう」
と、声をかけられただけだった。
(森、どうかしたのか?)
てっきり、朝一番に植木はもらえると思っていたので、ちょっとふしぎに思った。
休み時間にもどんどん増えていく、チョコ。
しかし、やっぱりいつになっても、森からはもらえない。
昼休み。
休み時間。
掃除後の休み。
いろいろな時間があったのに、森は近寄ってすら来ない。
ついに、植木も我慢ができなくなり、森のそばに行った。
「おい!森、なんで今日は話しかけてこないんだ?」
すると、森は小声でいった。
「だって、ここで渡すと恥ずかしいんだもん。だから、帰り道で渡すね・・・」
森は笑顔を見せながらいった。
そんな森を見ていて、怒っている気持ちもどこかに消えた。
席に座って、のんびり寝ることにした。
そのとき向こう側で、森が恥ずかしそうな顔をしていたのは気づかなかった。
給食が終わった後の5時間目、ひたすら眠気が襲ってくる。
しかも、授業は家庭科。
男子にとっては、どうでもいい授業のうちのひとつだ。
しかし、眠たくなりながらも植木はあることを思っていた。
(森がおれの妻になってくれたら、どんな感じなんだろうな・・・)
とてつもない、妄想。
まあ、間違いなくこのままの仲のよさで、人生を歩んでいったら、間違いなく結婚だろう。
そんな考えをしながら、植木は眠りについた。
夢の中では、森が自分の妻になっている夢を見ていた。
(耕助、起きて!)
(べつにいいだろ。もうちょっと寝ても)
(そんなこと言わない!あんたも一応社会人なんだからね!)
(う〜ん・・・じゃあ、お目覚めのキスしてくれ)
(え?)
(だめなのか?)
(わ、わかったわよ)
森の唇が自分の唇に触れそうになったとき、
「植木!なに寝てるんだ!」
と、先生に怒られた。
植木は寝ぼけながらも、先生を少しにらんだ。
(なんだよ!せっかくいい夢だったのに・・・)
夢の内容を見たら、あほか!といいたくなるような内容だったが、すっかり大人になっていた森の姿をもう少し見ていたかった。
とっさに、森のほうに視線が向く。
しばらくすると、森も視線に気がついたようで、恥ずかしそうに、目線を下げる。
やがて、眠い家庭科が終わり、帰ることになった。
植木はかばんを片付けながらも、さっきの夢を思い出していた。
(森、かわいかったなー)
植木にとっては、いまもなのだが、夢の中の森は、美人だったらしい。
当然、自分の姿はみていない。
(おれって、未来、どんな風になってるんだろうな?)
なんて、くだらないことを考えながら、かばんをしまっていた。
「植木!」
だれが呼んだかは、すぐにわかる。
なんてったって、夢の中にも出てきた声だからだ。
「森、どうしたんだ?」
心の中で、呼ばれることに喜びながら、返事をした。
なんで森が、話しかけてきたのかはわかっていた、しかし、たまにはからかってみたかったので、とぼけてみた。
「どうしたって・・・あんた、話聞いてた?」
「ああ、チョコだっけ?・・・」
知っているのに、とぼけた振りをしてみる。
森の自分を見てあきれている顔を見るのも、楽しいのだ。
「そうよ。だから、いっしょに帰るんでしょ」
「ああ」
クラスの後ろにおいておいたチョコいっぱいの紙袋を持って、森といっしょにかえる。
「でも、植木。たくさんもらったわね」
ある意味、感心したように、森が聞いてきた。
「ああ、どんどん増えてな」
植木の人気は、おそらく学校でトップだろう。
ファン倶楽部もあるというから、驚きだ。
「でもおれ、森以外、興味ないし」
「な!・・・」
恥ずかしいのか、顔を真っ赤にする森。
「そういえば・・・」
植木は森のほうに手を向けた。
「なに?」
「くれるんだろ?チョコ」
納得したように、うなずき、かばんから出す。
「はい。これ」
去年は、板チョコだったが、今年はハート型である。
「センキュ。ところで・・・」
「?」
「おれ以外のやつに渡してないだろうな」
以外と植木は、嫉妬深い。
すぐ、渡したとなれば、すねてしまうだろう。
「当然じゃない。あたしだって、植木以外興味ないもん」
顔を真っ赤にさせて、森もいう。
二人の顔は真っ赤に染まっていた。
「今年も、スイートなのか?」
「うん。植木、好きでしょ」
植木の好きなものはだいたい、森は知っている。
だから、たまに弁当を作ってきてくれるのだが、好きなものしかない。
「それと、今日はもうひとつプレゼントがあるの」
「なんだ?」
「それはね、チョコよりも甘いのよ」
(チョコよりも甘いもの?)
植木は、必死に考えていた。
すると、唇にやわらかい感触がした。
(え?)
下を見てみると、背伸びをしながら、度アップになった森の顔。
「あたしからのプレゼントだよ」
すると、森は走ってかえってしまった。
「お、おい。森」
植木はただボーっとして、去っていく森を見ているだけだった。
植木の頭には、たったいま、目の前にあった森の唇が霞んでいた。
終了
あとがき
アンケート小説、バレンタイン終了しました。
甘いものをかけましたね。ホワイトデーはこの続きにしようかなっと思いました。
まあ、とにかくがんばりましたので、ぜひ読んでくださいね。
以上、朔夜でした!
2004年11月6日