こんなはずじゃ・・・








―森視点―

季節は、秋から冬になりかけている時期。

このころは、ちょうど学校も衣替えの季節である。

夏服から、冬服に制服が変わった。

「うぅー。やっぱり寒いわね・・・」

森は、寒さに体を震えていた。

冬服になっても、この時期は冷えるときが多い。

(こんなことだったら、ベストを着てきてもよかったわ)

「おーい。森!」

不意に呼ばれる声がする。

その声の主は、自分の恋人、植木耕助だった。

「おはよう。植木」

「おう」

植木とのなにげない会話。

ここからわたしの一日の本当のスタートは始まる。

「ねえ、植木。今日、いっしょに出かけない?」

森は、今日家族が出かけているため、暇だったのだ。

「おう、いいぞ。それで、どこへ行くんだ?」

「えーっとね。じゃあ、ジャ●コでも、行く?」

森の家では、料理を作るのは父親の役目だが、買い物をするのは森の役目なのだ。

「買い物か・・・いいぞ。べつに」

「植木、ありがと!」

森は、植木に微笑んだ。

植木は、少し照れた様子で、そっぽを向いた。

いままで、何度も植木に頼んだことはあったが、断られたことはなかった。

それだけ、植木が優しいのだ。

(こんな人『植木』と、付き合えるなんて、あたしは幸せね)

ちょっと変わったところはあるが、そこを補えるほど、優しくて、頼りになる。

二人は手を繋ぎながら、学校に登校した。

学校では、ふたりは同じクラスである。

しかも、席はそこまで離れていない。

学校についても、チャイムがなるまではいつまでも、話している。

二人にとっては、1秒1秒が大切な時間なのだ。

授業が始まっても、二人は相手のことをいつでも考えている。

そのためか、よく植木は後ろにいる森のほうに視線を向ける。

森もよく、植木のほうに視線を向ける。

まあ、背中しか見えないのだが・・・

当然、二人は、よく先生に注意される。

しかし、二人はまったくそんなことにはこりていない。

休み時間になると、すぐに相手の机に向かうほどだ。

そんなに心が通じている二人がそんなことで、くじけるわけがない。

結局、その日の全授業で注意されたそうだ(笑


やがて、学校も終わった。

「植木、いっしょに帰ろ!」

「ああ」

そして、二人はいっしょに帰る。

「ねえ、植木。約束覚えてるよね」

「ああ。買い物だろ。わかってる」

たまに、植木は約束したことを忘れているから、不安になる。

(よかったー。植木、覚えていてくれて・・・)

植木と帰れることは、当たり前だと思っていた。

でも、たまに植木と帰らないと寂しくなる。

それからだったんだろうか。

植木のことが好きだと気づいたのは・・・

その後、すぐに植木に告白してOKをもらえたときは嬉しかった。

それに、植木も『好きだ!』って、いってくれたからもっと嬉しかった。

「・・・り、森!」

つい、感傷に浸ってしまった。

「はっ!ど、どうしたの?植木?」

「いや、森が立ち止まってたから、呼びかけただけだけど」

「あ、ありがと・・・」

「それじゃあな。すぐにおまえの家の前に行くから・・・」

「うん。じゃあね。また・・・」

すると、植木はちがう道を走っていってしまった。

(なんで、道が分かれてるのかな?ずっとしゃべっていたいのに・・・)

植木と離れてからが、何よりも寂しい。

家で一人でいるときよりも、だれもいない教室にいるよりも・・・

だって、さっきまで植木と話していたから。

植木がそばにいたから。

それだから、植木が離れていってしまうのが寂しいのだ。

(あたしって、やっぱり植木のことが大切なんだね・・・)

そうして、家に着いた。

家に着いても、いつ植木がくるのか、待っているだけだ。

(植木・・・はやく来てくれないかな?はやく会いたいよ・・・)

植木は約束したことを破らない。

だから、考えることは、植木が早く来てくれること。

そして、はやく植木の顔が見たいこと。

ーピンポーンー

「森、いるか?」

待っていた人の声だった。

「当たり前でしょ。あたしの家なんだから・・・」

「そうだな・・・じゃあ、行くか?」

「うん」




―植木視点―

二人でジャ●コに向かう。

「どんなもんを買うんだ?」

「えっとね・・・卵と、ジャガイモと、にんじんと、あと・・・」

今日の朝、チラシを見て安売りだったのだ。

「森が作るのか?」

「えっ?た、たまにね・・・」

そのことばを聞いて、植木はゾッとした。

(森の料理って、うまいけど、見た目が悪いからな・・・)

自分にも何回か弁当を作ってきてくれたが、やはり見た目が悪かった。

なんてったって、見たところぬるぬるした、たこの足なのだ。

(もうちょっとがんばれば、いいと思うんだけどな・・・)

味はいい。あとは見た目だ。

植木は、ジャ●コに向かいながら、思っていた。

ジャ●コについた。

「じゃあ、植木。かご持って!」

「あ、ああ・・・」

食材コーナーに入った瞬間、森はまるで主婦のように商品を選んでいく。

(森、いつもこんなところ来んのか・・・)

「植木、ボーっとしてないで、こっちに来て!」

「お、おう」

いつの間にか、かなり奥のところにいた森が植木を呼んだ。

(森が、おれの妻になってもあんなふうなのかな?)

つい、森といると未来のことを考えてしまう。

まだ、自分たちは中学1年生。

結婚など、まだまだ先の話である。

でも、森といつまでも一緒にいたいと考えると、結婚という風に考えてしまう。

森に告白されたときは、本当に嬉しかった。

嬉しすぎて、涙が出そうだった。

ずっと、好きだった相手。

でも、迷惑になると思い、告白をするつもりはなかった。

そっちのほうが、森にはいいと思っていたから・・・

(森といっしょにいたい・・・ずっと)

先ほども、家に帰ってからすぐに、森に会いたいがために、電光石火を使った。

理由は、簡単だ。

森にはやく会いたいから。

森の顔が見たいから。

ただ、それだけ・・・

しかし、それが植木にとって、すべてのエネルギーとなる。

「ほら、植木。ボーっとしないの!」

「はいはい」

こうやって話しかけてくれるのも、嬉しい。

やがて、買い物を終わらせた。

しかし、いつも荷物もちというのは悲しい・・・

「植木、持っててくれてありがとね」

「森が持たせたんだろ・・・」

「なんか言った?」

「何でもありません・・・」

なにやらこういうときは、パシリになってる。

やがて、人の行きかう大通りに着いた。

「・・・植木。つまらなかった?」

「べつに・・・」

森がいきなり、そんな質問をしたのには驚いた。

森は、よく心配してくれる。

「ずっと、買い物に付き合わされてばかりだったから、つまらなかったかなって思って・・・」

「森といっしょにいれただけでもいい・・・」

本心からいった。

すると、森の顔が朱に染まる。

「な!?な、なに言ってんのよ!?」

「だって、本当のことだろ」

「そ、そう言ってくれると嬉しいけど・・・」

恥ずかしがる森に近づき、静かに優しく抱きしめた。

「ちょ、ちょっと植木!?」

森は、必死に抵抗する。

おれは、森をさらに強く抱きしめた。

「植木、離してくれない?」

そんな言葉は、耳には届かない。

森を離したくないから・・・

このままでずっといたいから・・・

森は、自分よりも少し小さくて、抱きしめると胸の中にすっぽりと収まってしまう。

しばらくすると、森はあきらめたようで、抵抗をやめた。

そして、自分の背中に手を回して、胸に顔を当てた。

しばらくそのままで二人は時間を過ごす・・・

会話があるわけではない。

静かに、二人は抱きしめあう。

まるで、時間が流れていないように・・・

「ねえ、植木・・・」

沈黙を森が破る。

「なんだ?」

「しばらくこのままでいさせて・・・」

「ああ」

そして、ふたたび沈黙が訪れる。

どれだけ時間がたったかはわからない。

ふいに植木がいう。

「キスしていいか?」

森も静かに頷く。

「うん・・・」

そして、二人は唇を合わせた。

もうすでに、二人は周りの光景が見えていない。

あなたといつまでもいっしょにいたい。
わがままかもしれないけれど、この願いはかなって欲しい。
ほかにどれだけの願いが犠牲になってもいい。
この人とだけはいっしょにいたい。
いつまでも・・・

そのとき、通行人が騒いでいたが、そんなもの二人の耳には届かなかった。

それが、後に災いになるとも知らずに・・・

おまけ

その次の日、学校に登校すると、友達から質問攻めにあった森。

「あいちん。昨日、植木とキスしてたでしょ!」

「な、なんで?」

「だって、大通りの電光掲示板に大きく写ってたよ」

「え!?」

「しかし、あいちんもやるねー。植木から抱きしめてきたのに、自分からも抱きしめるんだもんね・・・」

「な!?」

「やっぱりあいちんは、植木のことが大好きなんだねー」

「そ、そんなんじゃ・・・」

大画面の電光掲示板に自分たちが最初から写っていたと森は知った。

その瞬間、顔が真っ赤になる。

(え!?じゃ、じゃあ、もしかしてかなりの人が知ってるの?)

一方の植木も、質問攻めにあっていた。

「おまえから抱きしめるなんてやるなー。しかも、キスまでするなんて・・・」

「な!?なんで知ってるんだ?」

「だって、電光掲示板に、おまえら写ってたぞ」

「ま、まじで!?」

「ああ。しかも、ド・アップで」

その瞬間、植木も恥ずかしくなり、顔が朱に染まる。

結局、その日はその噂ばかり耳に届いた。

帰り道、植木と森はいっしょに帰りながら考えていた。

「なんで、写ってたんだろ?」

「さあ?偶然じゃねえのか?」

いや、電光掲示板はだいたいCMを流したりするためにある。

めったにそんなものを写したりしないのだが・・・

すると、佐野と鈴子たちに偶然会った。

「あ、鈴子ちゃん」

「よう」

「おまえらか・・・」

「あいちゃん。久しぶりですわ」

なにげない会話。

しかし、少し内容が違っていた。

「しかし、昨日はおもろかったな」

佐野が話し出した内容に植木は興味を持った。

「なんか、あったのか?」

「いやー、昨日鈴子の家に遊びにいったらな。大通りの電光掲示板を自由に使わせてくれてな・・・それでいろいろと写しとったんや。いろんなやつらの度・アップとかな」

「ちょっと待って・・・佐野、昨日大通りの電光掲示板を使ったの?」

「ああ、そうやけど?」

昨日、電光掲示板を使い、いろんなやつらの度・アップを取っていた。

つまり、それは自分たちを電光掲示板に写した犯人は、目の前にいるこの男だということを確信させる、証拠になった。

みるみるうちに、怒りがこみ上げる。

(あいちゃんたち、恐いですわ・・・)

鈴子は、そそくさと逃げ出した。

「お、おい。鈴子!?」

あわてて、鈴子の後を追おうとするが、背中を森につかまれた。

「なんや?森・・・?!!」

森の顔を見た瞬間、佐野は思った。

(鬼や!鬼がおる!)

「あんたが、昨日、電光掲示板で大通りの画像を写してたのね・・・」

「あ、ああ。そうやけど・・・」

佐野は恐る恐る話した。

すると、その次に飛んできたのは言葉ではなく、手だった。

ーバキッー

佐野の顔面に森のげんこつが直撃!

「な、なにするんや!」

「あんたがあたしたちを電光掲示板に写したんでしょ!」

「え!?あ、ああ。そうやった。おまえらを写したなー。たしか、抱きしめあっとったんや。それでおもろうなって、写したんや。そしたら・・・」

その続きは言わせてもらえなかった。

ーバキッ ドスッー

ふたたび、みたび、間髪おかずにげんこつが直撃!!

「ぐはぁ!」

そして、森は容赦なく、佐野を殴り続ける。

しばらく佐野は殴られていた。

そして、少し手がやんだときに、植木の元に走った。

「植木、森が殴ってきて・・・?!!」

佐野が見たのは、森に負けずおとらずの、怒りのオーラを張り付かせている植木の形相だった。

(阿修羅や!こっちは阿修羅がおる!)

「百鬼夜行!!!!!」

ーバキッー

また、佐野は吹っ飛ばされる。

そして、そこには森が・・・

またもや、げんこつの嵐・・・

そこに、植木が加わる。

(な、なんでこうなるんやーーーー!!!!)

佐野の顔の腫れは、2ヶ月たっても治らなかったらしい。

終了



あとがき
甘さ控えめを書いてみました。佐野を出してのギャグもどうでしたでしょうか?
けっこう、いいと思いますよ。わたしてきには・・・・
まあ、がんばりますので。
以上、朔夜でしたー

2004年12月7日