こっちのほうがいい
中学2年の秋。
音楽の授業、いま習っている授業の内容はハーモニカだった。
森は自分の家から、子供のころから使っているハーモニカを持ってきていた。
しかし、まったくといっていいほど、ハーモニカは苦手。
何度も練習したときがあったのだが、いつもピーという音が出てしまう。
ということなので、ハーモニカは持ってきていたのだが、いつも忘れてきたといってごまかしていた。
どうせ、ミスをして恥をかくよりは、成績が下がったほうがいいのだろう。
音楽の授業は、毎週2回なので、その日はとってもいやだった。
しかし、それでも、学校に来ようと思う理由が森にはあった。
(あぁー。ハーモニカの授業、早く終わらないかしら)
音楽の授業が終わったので、自分の席についてため息をついていた。
「おーい。森。また、ハーモニカ忘れたのか?」
その聞き覚えがある声に、森は振り向いた。
(植木だ!)
音楽の授業があるときに、学校に来ようと思う原因の人物、植木耕助だった。
森が、いま唯一好きな人である。
まあ、もともと何も関係はなかったのだが、中学1年のときにあった、戦いのときに、仲間として戦った人物だった。
自分のことを一番守ってくれて、一番心配してくれた人物。
女子にはとっても、嫌われているのだが、唯一学校の中で植木とふつうに話すことができるのは、森だけなのだ。
だから、植木もさかんに話しかけてくれる。
女子に嫌われていることはかわいそうだが、ぎゃくに他の女子に興味をもたれないということで、安心したときもあった。
「べつにいいじゃない。ハーモニカの授業、もう少しで終わるんだし・・・」
いつ終わるかはわかっていないのだが、植木は正直なので、信じてくれる。
「ふーん。そうなのか。でも、忘れ物はいけねえぞ」
植木の言っていることは、正しいことばかりだ。
「そういうあんたは、ハーモニカは得意なの?」
2年生になって、クラスが別れたため、植木がひごろ、どんな態度で授業をがんばっているかとか、そういうのはわからなかった。
まあ、勉強がわからないといって、植木が自分に助けを求めてきたときもあった。
「おう。なんでかしらねえけど、ハーモニカは得意なんだ!」
「じゃあ、吹いてみてよ」
勉強が苦手な植木が、得意というハーモニカ。
ぜひ、聞いてみたいという思いがあった。
「いま吹くのか?」
「あたりまえじゃん」
しかし、植木は困った顔をした。
(どうしたのかな?)
「今日、音楽なかったから、ハーモニカがない」
「は?」
音楽の授業がなくても、ハーモニカは置いていってもいいのだが、植木はいつも持って帰っているのだ。
だいたいの生徒は、自分のロッカーにしまってあるのに・・・
「すまん。演奏できなくて・・・」
「べつに、ないのならいいわよ」
すると、植木は何かを発見したように、ロッカーに向かった。
そこには、ひとつのハーモニカがあった。
(あ!あれは・・・!)
それは、ひそかに隠していた森のハーモニカだった。
そんなことはまったく知らない植木は、それを手にとった。
「なあ、これ、だれのか知ってるか?」
(あ、あたしのなんだけど・・・)
自分のものとは言えない。植木は、うそが嫌いである。うそを言って、植木に嫌われるのはいやだった。
いっこうに答えを言わない、森を見て、だれのものかがわからないと思ったのか、それを口に付けようとした。
「ちょ、ちょっとまって!」
「ん?どうした?」
「そ、それ。だれのものかわからないんでしょ。だれか使ってたらどうするの?」
「大丈夫だって・・・ここのロッカーにあったんだからさ」
そこのロッカーはだれも使っていないロッカーだった。
ちょうど、教材道具がおいてあって、そこの裏に森は隠していたのだが、なぜか、今日は教材道具が倒れていて、植木に見つかったのだ。
「だから、勝手に使ったらいけないんじゃ・・・」
「いいじゃん。森に演奏してみたいし・・・」
森は、ここで始めて自分の失敗に気づいた。
(興味で言ってみるんじゃなかった。)
少し考えていて、少し植木のほうに視線をそらす。
(あ!)
植木は、すでにハーモニカに口を付けていた。
(う、植木とあたしが、かかか、間接キス・・・)
森はあまりの恥ずかしさに顔が真っ赤になっていた。
「森?どうしたんだ?」
森の様子の変化に植木は気づき、森に声をかけた。
「そそ、それ、あたしのハーモニカなんだけど・・・」
しばらくの沈黙。
植木のあっけにとられた表情。森の真っ赤になっている表情。
すると、植木が森のハーモニカで演奏し始めた。
「植木!?」
植木は無言に演奏し始める。
その音色はとっても、きれいで澄んでいる感じだった。
(きれいな音色・・・)
自分のハーモニカでもこんな音が出るのかと思い、森は静かに聞いていた。
植木が演奏を終えた。
「植木、ハーモニカ上手だったんだね」
すると、植木は話し始める。
「別に・・・森が演奏してくれって言ったんだから、森のハーモニカで演奏してもいいだろ」
「え?」
植木の言葉に、さらに恥ずかしさがまして、森は顔が赤くなる。
「それに・・・」
植木は森の腰に手を回した。
(え?)
一瞬だけ、唇にやわらかい感触があった。
「間接よりもこっちのほうがいい」
植木の行動にボーっとする森。
そして、状況を理解して。
(え?ひょ、ひょっとして、いまあたし、植木とキスしたの!?)
そして、顔が一瞬で真っ赤になる。
「いやだったか?森」
そんなわけがない。なんてったって、自分の一番好きな人とファーストキスができたから
「ううん。びっくりしただけ・・・」
「森、好きだ」
「うん。あたしも」
ちぐはぐな関係よりも、こうやって、ちゃんと思いを伝えたほうがいい。
友達という関係よりも、恋人という関係のほうがいい。
どんなものにも、優劣はある。
人間は、つねに、いい物を求める。
それでいいかもしれない・・・
終了
あとがき
甘いものをかいてみました。いろいろとたいへんですよ。こういうのをかくのは・・・
なんてったって、ネタがいりますからね・・・
最近だと、表現でちょっとした間違いもあるかな(笑
甘いのは、大好きな人がぜひ見て欲しいですね。僕の小説は
以上、朔夜でした!
2004年12月7日