現実と夢の間
「じゃあね。植木」
「ああ、また明日な」
学校が終わって、二人は分かれ道でわかれた。
二人は、すでに付き合っている仲。
いっしょに毎日登下校もする、キスをしたこともあった。
すでに、同じ高校に進むことを決め、いっしょに勉強することも多かった。
とにかく、毎日が楽しい。
そう、最近では、学校をつまらないと思ったことはない。
(これも植木のおかげだよね)
(森がいなきゃ、学校ってつまんねえけど、いてくれるだけで、学校って結構面白く感じるんだな)
森が、学校を楽しいと思う訳。
自分に向かってよく笑ってくれること。
植木が、学校を楽しいと思う訳。
毎日、森が弁当を自分に作ってきてくれること。
そして、二人で話が出来ること・・・・・。
そんなこんなで、学校を満喫している二人だった。
さて、各々の家に着いた二人だったが、考えることは同じ。
(明日も、植木に会えるよね)
(明日も、森の弁当が食えるんだな)
そして、二人は眠りについた。
ベッドで寝ている森。
ふいに目が覚めた。
(ん?なんで、あたしこんなところで寝てるの?)
視界を廻らせてみると、どこかまわりの情景が違う。
自分の部屋とは違うようだ。
(まだ、眠いや・・・)
と思い、ふたたび、布団の中にもぐりこもうとした。
すると、となりに誰かいることに、ふと気づいた。
(!?。だれ?)
見えないように寝ている、男の人。
覗き込んで、顔を確かめてみる。
(え!?植木!?)
男の子では無く、男の人。
なぜ、植木が自分といっしょに寝ているのか。
しかも、自分の部屋とは違うところで。
森の頭の中は、すでに混乱していた。
これが、夢だということはすっかり消えていた。
植木も、目覚めた。
(ん?どこだ、ここ・・・)
瞼を開いた瞬間、目が一瞬で覚めた。
なぜなら、自分の顔を森が覗き込んでいたからだ。
(な!?なんで、ここに森がいるんだ?)
昨日より、少し大人びた姿。
植木の心臓は、今までにないくらい早く動いている。
一方の森も、植木の寝顔を見ていたのだが、いざ植木が起きると、ドキドキしだした。
相手のすっかり成長した姿。
(植木、かっこいいな。)
(森、きれいだな)
相手の姿に、素直に感想を抱かずにはいられなかった。
とにかく、森は話しかけようとした。
「耕助、やっと起きてくれた・・・・」
(あ、あれ?なんで?)
森は、“なんで植木はここにいるの?”といいたかったのに、まったく違うことを言った。
しかも、植木の事を名前で呼んでいる。
なぜか、恥ずかしくなる。
植木を名前で呼ぶのは、もっとあとにしようと考えていたからだ。
一方の植木。
(も、森・・・あいつ、おれのこと。名前で呼んだのか?なんか、恥ずかしいな)
そして、植木も森に話しかけようとした。
「あい。なんで、起こしてくれなかったんだ?」
(え?な、なんでだ?)
植木は、“森は何でここにいるんだ”といいたかったのに、言いたいこととまったく違う言葉がでたので、驚いた。
森も、植木が自分のことを名前で呼んだのが、恥ずかしかった。
(なんか、植木に名前で呼ばれると、恥ずかしいよ)
心の中では恥ずかしいのに、言葉はその恥ずかしさを裏切る。
「だって、耕助の寝顔。かわいいんだもん」
(えっ!?そ、そんなこと、たしかに考えたけど・・・言おうとしてない)
(な、なに言ってんだ。森は・・・)
「あいだって、かわいいだろ」
(な!?おれは、そんなこと言おうとしてない。たしかにそう思ったけど・・・)
(植木、なに言ってんのよ・・・は、恥ずかしいじゃない)
「耕助だって、かっこいいじゃない」
(違――う。そんなこと、思ったけど・・・)
(なんか、いつもと様子が違うな。森)
言おうとする言葉とは、まったく違うことを口にする自分達に二人は驚いている。
言われたほうも、その言葉に驚くばかりだ。
「なあ、いつものやってくれないのか?」
「今日も?」
「当然だろ」
(い、いつものって、なに?)
(いつも、なにをしてるんだ?)
二人が、自由のきかない体、少しずつ薄れていく意識の中で考えていた。
森が植木に少しずつ近づいてゆく。
(え!?ちょ、ちょっと待って・・・)
森の指先が植木の頬を撫でる・・・・・。
(お、おい。ま、まさか・・・)
互いの息遣いが鮮明に感じ取れる距離。
濡れた唇が、重なり逢う―――――。
そのとき
ーバサッ バサッー
「な!?え?ゆ、夢?」
「う、うわっ。ゆ、夢?」
二人は同時刻に、飛び起きた。
先ほどまでの――あまりに現実感に満ちた夢の――ことが忘れられない。
好きな相手のことを、名前で呼んでいたこと。
森が植木に、目覚めのキスをしようとしていたこと。
そのすべてが重なり合う。
(あれは・・・・未来のことだったのか?)
(ひょっとして、あれは結婚したときだったのかな?)
奇しくも、ふたりは、同じことを考えていた。
お互いに、顔が真っ赤に染まる。
結局、その日は、眠ることができなかった。
翌日
父に呼ばれたので、朝ごはんを食べていた。
「なんだったんだ?あれは?」
植木は、昨日の夢を思い出して、考えていた。
(おれ、森と毎日目覚めのキスをするのか?)
そう考えると、ふたたび顔が赤くなる。
森も、朝ごはんを食べていた。
「あれって、本当のことだったのかな?」
自分が植木に、目覚めのキスをする夢。
(あたし、植木と結婚したら、あんなことを、毎日するのかな?)
なぜか、植木と結婚することは、否定しないらしい。
やっぱり、顔が赤く染まった。
学校に登校しているときも、二人は考えていた。
そのとき二人は出会った。
「!!う、植木・・・」
「!!も、森」
昨日の夢が鮮麗によみがえる。
いつもなにげなく交わす挨拶もぎこちない。
「お、おはよう。植木」
「あ、ああ」
二人は、いつものようにいっしょに登校はするのだが、会話がない。
なぜなら、二人は同じことを考えていたからだ。
(あたし、いつになったら耕助って、呼べるのかな?)
森は、意地っ張りであるため、そんな勇気がない。
(森のことを、いつからあいって呼ぼうかな?)
植木も考えたことがなかったわけではないが、きっかけがなかったのだ。
不意に、二人の視線が重なる。
二人とも、顔が赤く染まり、目線をそらした。
(な、なんでこんなにも、ドキドキするのよ・・・)
(森の顔を見るだけで、なんでドキドキするんだ?)
いつものことが、なぜか違うようなことになっている。
「な、なあ。森。なんかあったのか?」
「え?」
「だって、さっきから様子がおかしいし」
「う、うん。あ、あのね、笑わないで聞いてくれる?」
笑わないでということは、どういうことだろう?
「なんだ?」
「あ、あのね、わたし、植木と結婚しているときの夢を見たの」
(お、おれと同じ・・・)
「それでね、あたしが、植木のことを・・・こ、耕助って、呼んでたの」
「そ、そうだったのか・・・」
はっきりいって、びっくりした。
自分と同じような夢を、森もみているとは思っていなかった。
「植木こそ、なにかあったんじゃない?」
「え?お、おれ?おれは・・・」
ここで、ごまかそうか、否かと考えたが、本当のことを言うことにした。
「たぶん、森と同じ夢を見た」
「え?」
「おれが、森のことをあいって呼んでたんだ」
自分の夢と、見事に一致した。
「そ、そうだったんだ・・・」
ふたたび会話がなくなる二人。
「なあ、おれたちって、結婚するのかな?」
「ななな、なにいってんのよ」
不意に、植木が聞いた質問に、恥ずかしさが増す森。
「おれ・・・あの夢のままでもいいけど、結果は違うものにしてみたいんだ」
「え?」
どういうことだろう。まさか、結婚したくないのだろうか
「だってさ、あんな夢で未来が決まっちゃ、つまらないだろ。森は、おれのことを植木って呼んだままかもしれないし、おれは、森のことを森って呼んでる可能性だってないわけじゃない」
「あ!そっか。そうだよね」
あれは、たしかに現実味は帯びていたが、夢だ。
あのとおりになるとは、限らない。
「でも、どんな未来になっても、おれのそばにいるのは、森だけどな・・・」
「え?」
植木のほうを見ると、顔を真っ赤にさせていた。
「あたしも、どんな未来でも、植木のそばにずっといるよ」
森も、顔を真っ赤にさせながらいった。
未来はひとつじゃない。いろんな未来がある
未来は決まっているかもしれない。でも、そんな未来はぶち壊せ。
だって、人生が決まっていたら、世の中つまらない。
でも、人生を変えても、そばにいて欲しい人はいつまでも変わらない。
たとえ、どんな未来でも・・・
終了
あとがき
これは、ハスラーワンさんに協力してもらって書きました。
いや、いろいろがんばりましたよ。難しいですからね。
ハスラーワンさん、ありがとうございます。
以上、朔夜でした
2004年12月7日