頼りになるのは・・・
外は、すでに雲が太陽をかくし、どしゃ降りのうえ、真っ暗になっている。
だいたいこんなときは、“あれ”が来る。
「もぅー。なんでこんなことになってんのよ」
先生に呼び出され、仕事をやっていた森は、窓から見える外の様子を見てため息をついた。
(今日、天気予報で晴れって言ってたから、傘持ってきてないよ)
たしかに、今日の朝は、午後からの天気は晴れの確率、100%といっていたのだが、天気予報はやっぱり当てにならない。
(信じたあたしが、バカだった。)
人間はこういうときに必ず後悔する。
家を出るときは、今日は、天気予報で〜だったからといって、外を出るのだが、いざ天気が予報と違うと、人間は後悔するものだ。
「じゃあ、森さん。そろそろいいですよ」
任されていた仕事が、どうやら終わったので、玄関に向かった。
廊下は真っ暗。だれの気配もない。
(こういうときの学校って、怖いわね)
玄関についたのだが、仕事をやっていたので、だれもいない。
(どうしよー)
よりによって、今日はお金を持ってきていないので、公衆電話を使うことができない。
だからといって、雨の中を走り抜けるのは、おそらく体調を崩すだろう。
(先生にたのもうかな。ん?なに、この傘?)
なんと傘置き場には、ひとつ傘が刺さったままだった。
(だれのかな?)
傘の手のところを見ると、案の定、そこには、シールに書いてある『植木耕助』という名前があった。
(え?これ、植木の?じゃあ、植木はどうやって帰ったの?)
「おーい。森。なにやってんだ?」
いきなり後ろから声をかけられたので、森は驚いた。
しかし、声の主が誰かはすぐにわかったので、安心して後ろを向いた。
「なんだ、植木、びっくりさせないでよ」
「ん。ごめん」
植木が、なぜこんな時間にいるのかわからなかった森は、植木に聞いてみた。
「ねえ。植木。なんでこんな時間にいるの?」
「教室、掃除してた」
やっぱりこういうところが、植木といったところか。
教室掃除を、自ら進んでやる中学生など、今はあまりいない。
(やっぱり、植木は植木だよね)
森が、感傷に浸っていると、植木が言った。
「んで、森はどうするんだ?」
「え?」
「どうやって、家に帰るんだ?」
「あ!そうだった」
植木がいたことに驚いていたので、すっかりそのことを忘れていた。
森が困っているのを見ていた植木は、森に傘を渡した。
「やる」
「え?でも、植木はどうするの?」
「このまま帰る」
さすがの植木も、こんなときに走って帰ったら、風邪をひいてしまうだろう。
それに、明日は、また戦いが始まる。
風邪を引いて負けたとしたら、植木は何にも言わないだろうが、自分のせいになってしまう。
植木を、ひそかに想っていた森は、植木がそんなことになるのは、いやだった。
「いけないわよ。だから、せめてこの傘の中に入って」
森の言ったこと。それはつまり“相合い傘”。
植木を想っていた森は無意識にそんなことを言ってしまった。
(あ、あたし。なんてこと言ってんだろ)
しかし、植木はそんなこと知ってか知らずか、
「おう。センキュー」
といって、中に入ってきた。
さすがに森も、植木がこんなに素直に入ってくるとは、思っていなかったようで、顔が真っ赤になっている。
好きな相手と相合い傘になれるなんて、まさしく幸せの絶頂である。
だが、おそらく植木はそんなことちっともおもってないだろう。
(植木は、どんなふうに思ってるのかな?)
喜びがある反面、ちょっとした不安もあった。
そんな森の様子を、植木は、静かに見ていた。
そんなこんなで、森たちは、帰りだした。
外は真っ暗。周りは無音で、唯一の音は雨のおちる音だった。
しばらく会話のない二人だったが、話題を出そうと森がしゃべりだした。
「ねえ。植木、今日何かいいことあった?」
「森が見れたこと」
真顔でそんなことを言う。
はっきり言って、こんな言葉は告白のようなものである。
しかし、植木は平然と言ってのける。
森は顔を真っ赤にさせながらも、
「ほ、ほかにはないの?」
と聞く。
しかし、植木からは、
『森に何もなかったこと』『森が笑っていたこと』など、すべて森のことだった。
(なんで、そういうこというのよ)
もう、森の顔は赤以外の色はなかった。
こんなことがあるので、森はたまに自惚れてしまう、植木は、自分のことが好きなのではないかと。
でも、植木のあとをつけたとき、植木には好きな人がいるっていってた。
あたしと会う前だったから、あたし以外の人だって思っている。
(なんで、もうちょっと前に、植木に会えなかったのかな?)
なにやら考えている、森を見て植木は、少し心配になった。
「森、どうしたんだ?」
「え?べ、べつに、なんでもないよ」
いきなり、植木に話しかけられたので、驚いた森。
すると突然、
「ドーン」
と、近くに雷が落ちた。
「キャッ」
森はその音に驚いて、植木に飛びついた。
「も、森!?」
いきなりの出来事に、植木も同様を隠せない。
しばらくして、いまの状況が理解できた森は、急いで、植木から離れた。
「ご、ごめん」
「い、いや。べつにいいけど」
植木の顔が、少し赤みを帯びているのに、森は気づかなかった。
(あ、あたし。自分から植木に抱きついちゃったよ。どうしよー)
先ほどの行動を思い出して、恥ずかしくなる森。
すると、自分が傘を持っている手に、暖かい感触が触れた。
(え?)
気づけば、植木が自分の手をにぎっているのだ。
(う、植木!?)
「こうしてれば、安心だろ」
「う、うん」
恥ずかしさから、植木の顔が見ることはできない。
でも、雷は怖くなかった。
こういうとき、頼りになるのは植木だ。
森は、それにいつも感謝していた。
(植木には、いつも助けられてるからね)
森は、確かにそれは嬉しかった。でも、たまには、自分を信じて欲しいと思うときもある。
植木が、自分のかばってあぶない目にあうこともあったから。
そんなことはあってほしくない。
でも、植木にいったら、『大丈夫』というだけに決まっている。
だから、この気持ちは、心の中に収めておく。
気がつくと、目の前が暗くなっていることに気がついた。
「え!?え!?」
驚きを隠せない、森。
それは、植木に、自分が抱きしめられているということだった。
「森・・・」
植木が話し出す。
「なんか、悩んでんのか?」
「!!」
思っていたことを言われ、植木のほうに顔を向けた。
「あのな、できればおれ、森の力になりたいんだ。だから、困ってることがあったら、言ってくれないか」
植木の優しい気遣いに、森は思っていたことを言った。
「いつも、植木はあたしを守ってくれるでしょ。でも、あたしはそれで、植木が危険な目にあうのはいやなの。だから、たまにはあたしを信じてよ」
すると、植木は抱きしめている手を強めた。
「森。お前を守るのは、おれが守りたいからだ。それで危険な目にあってもかまわない。でも、お前は仲間だ。だから、いつもおれは森を信じてる。それに・・・」
植木の、その言葉には、続きがあるようだ。
「おれにとっては、お前はいちばん大切な存在なんだ。だから、いつもそばにいたい。お前の笑っている顔を見たいんだ。だから、お前を守りたいんだ」
思わぬ、植木からの告白。
「ありがと。植木・・・あたし、嬉しい」
森の思いは、まだ植木には通じていない。
でも、森の心の中のもやもやは一気に二つも減った。
いつも、植木は、あたしがいてくれればいいって、言ってくれるけど、あたしにとっても、植木が、いつものように笑っててくれれば、いいんだよ
(やっぱり、頼りになるのは植木だね)
森は、植木の胸に顔を埋めたまま、この時間を大切にすごしていた。
終了
あとがき
森視点で、植木に対する思いを書いてみました。はっきりいって、同じようなものかいちゃった。
なんか、こんな話ばっか。告白話とかばっかりだ。
今度は、高校生になったときとか、書いちゃおうかな・・・
以上、朔夜でしたー!
2004年12月7日