通う心
森は、父親に頼んで、携帯電話を買ってもらった。
いままで、携帯がほしいなど、一言も言わなかった娘の様子の違いに押され、森の父親は携帯を買った。
森が、携帯を買った理由はひとつ。
植木が携帯を持っていたからだ。
携帯を持っていれば、メールをすることもできる。
それに、いつだって、連絡することができる。
昨日、植木と帰っている途中に、植木が携帯電話を持っているのを森は知った。
「姉ちゃんに、無理やり持たされた。いらねえっていってたのに」
「それ、つかってるの?」
「いちおう・・・。でも、メールとかしたことない・・・」
「じゃあさ、あたしとメールしない?」
「森、携帯持ってるのか?」
「あ、あたりまえじゃない」
そのときは、持っていなかったので、いざ、図星をつかれると動揺した。
「わかった。じゃあ、明日携帯持ってきてくれよ。メルアド教えるからさ」
「うん。じゃあね。また明日。」
それから急いで父に頼んで、携帯を買ってもらったのだ。
そのため、使い方もわからない。
メルアドすら知らないのに、教えてくれなんていわれて、わからないなんて答えたら、ため息をつかれるだろう。
そうならないように、森は必死に携帯をいじっていた。
その必死さは、勉強しているときよりも、必死だった。
やっと、メールの打ち方がわかったときに、電話がかかってきた。
「はい、森ですが」
「あ、森か?わるいけど、公園に来てくれ」
「うん。わかった」
公園に向かう途中も、必死に携帯をいじっていた。
公園に着くと、植木がベンチに座ってまっていた。
植木が、手招きで、こっちへ来てくれという感じで、森をよんだ。
呼ばれて植木のそばに座った。
「じゃあ、メルアド教えてくれ」
メモ帳にメモしてきたメルアドを植木に渡した。
「センキュ」
「じゃあ、おれ、これだから」
といって、植木もメルアドが書いてある紙を見せた。
「うん。ありがと」
一瞬、植木の顔が近くにあったことが恥ずかしかった。
「でもさ、森。これってあんまり意味ないよな」
「え?なんで?」
「だってさ、いつも、近くにいるじゃん。こうやって、しゃべってるし・・・」
「!。そうだね!」
そんなことはふつうは違うのかもしれない。
でも、この二人は、それが当たり前になってる。
「ねえ、あたしたちってさ、メールしなくても、いつでも、つながってるよね」
「ああ、そうだな」
「いつまでも、こうしていられるかな?」
「当たり前だろ」
携帯電話はすぐに相手と話すことができる。
でも、そんなものを使うよりもやっぱり、直に話せたほうがいい。
それがしたくてもできない人もいる。
だから、あたしたちはつながっている、今を大事にしよう。
そして、これがいつまでも続いて欲しい。
終了
あとがき
これもいろいろと甘いものですね。
まあ、終わり方が切ないですけど・・・
がんばってみましたが、短い。
以上、朔夜でした
2004年12月7日