「キャァァァ。植菌!!」

 今日この頃、やはり植木は女子にとてつもなく嫌われていた。

 まだ前よりはマシになったものも、相変わらず女子に嫌われていることに変わりはない。

 今日も案の定、落ちていた消しゴムを拾ってあげたらこのザマだ。

 思いっきり女子から張り手を受けた植木は、そのまま床へと倒れこんだ。

「いてて……」

 それでも諦めず、植木は再び女子に消しゴムを渡そうとする。

「キャァァァァァ!! 来ないでって言ってるでしょぉ!!」

 パシンッ! 植木に直撃した張り手のいい音が、教室に鳴り響いた。

 再び倒れ込む植木、だが諦めることなく再び、渡そうと挑戦する。

 そんなやりとりが続いてから10分近く経つと、やっと女子は植木から消しゴムを受け取った。

 すぐさま立ち去っていった女子は、何一つ変わっていないのだが……、変わりすぎているのは植木の顔。

 頬は真っ赤な手のひらで叩かれた跡が付いており、顔も何故か少しばかり腫れていた。

 だが、植木は何もなかったかのように、再び席に付こうとした……。

 だが……

「ちょっ!! 植木、大丈夫!?」

 後ろの席から聞こえる大きな声。

 誰の声だかは分かっていても、このまま無視すれば、経験上、余計にちょっかいを出されることも分かっていた。

「大丈夫だって……」

 ひとまず後ろを振り向くことなく、植木は適当にそう答える。

「大丈夫じゃないじゃない!! あんた、そんなに顔が腫れてるだから!! 保健室で休んできなさい!!」

 まるで、植木の母親のような人間だ……。

 だが、ここで皆さんには分かって欲しい。

あくまでも、この二人が会話している場は、“教室”であるということを。

 ヒソヒソと生徒たちの囁きあう声が、たまに植木の耳へと届く。

「分かったよ。保健室行けばいいんだろ……」

 そんな場にいるのが嫌になったのか、はたまた素直に言うことを聞こうと思ったのか、植木は席から立ち上がった。

「うん。それでよろしい」

 先ほどの声の主は、満足そうな声を上げると、もう声を上げることはなかった。

(はぁ……。)

 心の中で、そう文句を言う植木であった。

 

 ということで、たどり着いた保健室。

 ガラガラと音を立てながら、保健室の中に入ると、消毒液やガーゼの匂いといった独特の匂いが植木の鼻を襲う。

(苦手なんだよな……。ここ)

 だが、もうそろそろ授業が始まるという理由もあるからか、保健の先生の姿はどこにも見あたなかった。

 植木は自分では大した傷だとは思っていないのか、すぐさま保健室から教室へと、再び戻ろうとした。

 だが……

「!?」

「うーえーきー!!」

 植木の眼前に立ちはだかるは、先ほど大きな声を出して注意していた女子、森あいの姿。

 しかも、その表情がやけに笑顔だ。

「も、森!? なっ、何でお前がここにいるんだ!?」

 よっぽど森がいることが信じられないのか、植木は少しばかり声を震わせていた。

「あんたのことだから、保健室なんてすぐに抜け出すと思ってついてきたけど……、案の定だったわね」

 こめかみをヒクヒクさせながら、森は笑顔で植木を睨む。

 普通の表情で睨まれるよりも、こっちのほうが数段怖い。

「あ……、いや、その……抜け出そうと思ったわけじゃねぇぞ?」

 苦し紛れに言い訳を言う植木。だが、動揺した声では、当然、森を納得させることなどできるわけがなく……

「ふーん……。じゃあ、早く保健室に戻んなさいよ。」

 まったく態度を変えない森の言った言葉に、植木は仕方なく従うことにした。

「は、はい……」

 

 

 無理やり椅子に座らされたかと思うと、森はガーゼと消毒液を取り出した。

「だから、大丈夫だって……」

 植木がそう抗議してみるが、森はまったく聞き耳を持たない。

 森はガーゼに消毒液を染みこませると、それを植木の傷口へと塗った。

「いてっ!!」

「ほら。やっぱり痛いんじゃない。」

「って、消毒液つけたからだって!!」

「消毒液をつけて痛いと感じるときは、怪我してるってことよ。」

 正論を言われて、少しばかり植木は押し黙る。

 やがて、森はガーゼをゴミ箱へと捨てると、ゆっくりと植木を見つめた。

「まったく……やせ我慢しないでよね。あういう傷から黴菌は侵入してくるんだから」

 熱心に語る森に、植木はめんどくさそうな顔をしながらふと考えた。

(森って正しいこと言うけど、いちいち大げさなんだよな……)

「何か、考えた?」

「べ、別にッ!!」

 と、考えたところで森が鋭い視線で植木を睨み、その表情に圧されたのか、はたまた心を読まれたことに驚いたのか、植木はビクッと反応してしまった。

「そう……。じゃあ、私はそろそろ教室に戻るから」

 そんな森の言葉を聞いて、植木がホッと安堵の表情をしたのもつかの間、再び森は鋭い視線でこちらを睨んだ。

「“くれぐれも”保健室から出ないようにね」

「はっ、はい!!」

 今、一瞬、森が阿修羅のように見えたのは決して気のせいではないような気がする。

 おせっかいもここまで来ると、もはや脅迫だな。これは。

 そう言って、森は保健室を出て行こうとする。

「森!!」

 そんな森の後姿を、植木は大きな声で呼び止めた。

「何よ?」

 先ほどまでの恐怖を感じさせるような表情はなく、森はいつもの顔で植木のほうへと振り向いた。

「ありがとな」

 植木は、笑顔で森にそう言った。

 森は恥ずかしいのか、植木から少し視線を逸らした。

「べっ、別にお礼を言われるほどのことしたつもりじゃ……」

 気まずそうに言う森に、植木は笑顔を絶やすことなく再び言う。

「そんなことないって。お前みたいに心配してくれるやつがいてくれるだけで、結構救われるやつもいるんだぞ?」

(お前の場合は、度が過ぎてるかもしれないけどな……)

「あ、ありがと……」

 若干、心の中でダメなことも考えていたが、植木の言った言葉に、森は恥ずかしげに俯き、小さくそう呟いた。

 しばらく気まずい雰囲気が流れる。

 そんなとき。

 キーンコーンカーンコーン 授業の予鈴のチャイムが鳴った。

「あっ!? 授業始まる!! 植木、私戻るから。ちゃんと寝ててよね!!」

「あ、ああ。」

 忠告っぽく、森が最後に植木に伝えると、森は凄まじいスピードで廊下へと飛び出した。

 あまりのスピードに、植木はただ呆然とするだけだった。

(今……、電光石火よりも早かったな)

 森=天界人 という方程式が植木の頭の中に……、って、できたら困る!!

 そんなこんなで、森の言うとおり、保健室のベッドへと腰掛ける植木であった。

 

「ホント、お前って不思議なやつだよな」

「はぁ? 急に、何言い出すの? 植木」

 こんな会話が始まったのは、あんなドタバタから2時間経った下校中の時間。

「だってさ、俺が“女子に好かれる才”が無くなって女子に嫌われ始めても、お前は違っただろ? それどころか、俺を心配して危険な戦いに自分から足を突っ込んで、挙句の果てには能力者になってるし……」

 今までの思い出を思い出すかのように話す植木。

「それで、何が言いたいのよ?」

 植木の言いたいことが掴めないのか、森は植木に問いかける。

 すると、植木はニカッと笑いながら、空を見上げた。

「お前って……、特別なのかもな」

 植木が、当たり前のように口走った台詞。

 だが、森は植木の言葉に動揺を隠せないのか、顔を真っ赤にしながら言う。

「って、あんた、いきなり何言い出すのよ!!」

「俺、何か変なこと言ったか?」

「だから……」

 意味が分からないのか、?マークを頭の上に浮かべながら、植木は首をかしげた。

 森が動揺するのにはちゃんとした理由があった。

 特別と言われれば、よっぽど鈍感な人間ではない限り、それは告白と一緒のことだ。

 植木がどれだけ鈍感と分かっていても、いきなり言われれば動揺は隠せないわけで。

「特別ってことよ」

 恥ずかしいのか、呟くような小ささで喋った森の言葉に、植木はあぁ。と納得しながら、答えた。

「だってさ、俺たち、まるで見えない絆で結ばれてるっぽいじゃん」

「なっ!?」

 植木が鈍感なのは分かっていても、今の台詞は完璧に“運命の赤い糸”宣言である。

 どんな意味で植木は言ったのか分からないが、こういう言葉はあまり発しないほうがいい。

 案の定、森は顔を真っ赤にさせていた。

「ん? どうかしたのか? 真っ赤だぞ?」

 そんなケロッとした植木の態度に、森はいらつく気持ちを抑えながらも、

「何でもないわよ……」

 と、答えた。

 

 はてさて、この二人が人生のパートナー同士になるのは、一体、何年先の話だろうか。

 

 終了

 

 

 あとがき

 お題小説、2個目完成!!(イエーイ!!)

 そして、高校入学を一日前にしての完成!!(何やっとんじゃ。我!!)

 果てなく、植森を出してみました。

 最近は、キスシーンがありません。(宣言しなくてもよし!!)

 とりあえず、よかったかなぁ。と思える作品になりました。

 これにて、次の作品の完成も目指します。