あなたがいないと・・・










「キャー!!」

森にナイフを持った男が襲い掛かる。

「あぶねえ。森!」

その場を通りかかった植木は、思わず叫んだ。

「百鬼夜行!」

植木は、神器を使って、ナイフを持った男を気絶させた。

「森、大丈夫か?」

心配して、植木が近寄る。

「う、うん。ありがと・・・えっ!?う、植木!?」

「どうしたんだ?」

森の驚く様子を見て、植木は、自分の姿を見る。

植木の体が透明になっていた。

そう、植木は先ほど一般人を傷つけたせいで、才がひとつ、無くなったのだ。

それが、一番最後の才だったことも、知らずに・・・

(ひょっとして、さっき一般人を傷つけてなくなった才が、最後だったの・・・じゃ、じゃあ、植木は・・・)

コバセンの言葉を思い出す。

(才が全部無くなったら、植木は消えちまう・・・)

思わず、植木に駆け寄った。

そして、植木がどこかに行ってしまわないように、手を回す。

だが、植木に触ることはできなかった。

(あ、あれ?ど、どうなってるの?)

植木に触れようとしても、透けていて、通り抜けてしまう。

昨日まで、感じることができた、植木の肌の感触がしない。

「やだ!!植木!お願い!消えないで!」

しかし、そんな言葉が届くわけも無く、植木の体は透明になっていく。

「あんたがいなくなったら、あたし・・・」

涙が止まらなく出る。

なにもできない無力さと、いま起こっていることが理解したくなくて、ただ泣きじゃくるだけだった。

(どうすればいいの?このままじゃ、植木が・・・)

不意に上を向くと、植木が手を伸ばしてきた。

そして、ふれることのできない手で、森の涙をぬぐおうとする。

「植木・・・」

「やっぱり、無理か・・・」

涙が止まらない。

植木が消えるということを、考えることができない。

(植木、お願いだから、消えないで!)

すると、植木は再び手を伸ばし、森の頭の上に手を置いた。

当然、触れることはできない。

しかし、かすかにぬくもりを感じた気がした。

「おれはな・・・べつに、後悔してない・・・」

「え?」

「だって、最後に森を救うことができたから・・・それで消えたって悔いは無いんだ」

「植木、そんなこと言わないで・・・」

「それにな、おまえが泣いてる姿を見ると、不安になるんだ。だから、泣くな!」

「でも・・・」

「おまえは、笑っている顔が、いちばん似合うんだ。だから、いつまでも笑っていてくれ!」

自分が消えるというのに、森を責めたりしない。

ぎゃくに、自分の行った行動は間違っていないという。

(植木が消えたら笑えなくなるよ・・・)

自分が笑える理由は、いつも植木がいてくれたから。

植木が、話しかけてきてくれたから。

面白い話をしてくれたから。

でも、その人も、もうすぐ消えてしまう。

「な?森・・・」

「う、うん・・・」

「じゃあさ、おまえの笑顔を見せてくれよ」

「え?」

こんなときに笑えるはずが無い。

「頼むから・・・な?」

「わ、わかったわよ・・・」

涙を手でぬぐって、植木に必死の笑顔を見せた。

「やっぱり、森は笑顔が似合うぞ!」

やがて、植木のまわりに光があふれる。

「お別れか・・・」

「いや!植木!」

必死に植木を抱きしめようとするが、かなわない。

「おれ・・・森に会えてよかった。森がいつも励ましてくれたり、笑わせてくれたから、いまのおれがあるんだ。こんな言葉じゃ言い尽くせないけど、ありがとな。森」

「うえ・・・」

植木の姿が、無くなっていく。

「じゃあな。森。おまえに会えてよかった・・・」

植木は、笑顔で森を見る。

その笑顔がやがて消えていった。

残ったものは少ない間の思い出だけ。

「植木・・・いやーーーーー!!!!!!!」


「・・・り、森!」

誰かに呼ばれる声で目が覚める。

「う、え、き・・・?」

その場にいたのは、先ほど消えたはずの植木だった。

「森、うなされてたけど、どうかしたのか?」

先ほどのことが夢だとわかったとき、自然に涙があふれてくる。

「森!?どうしたんだ?」

「植木!」

思わず、植木を抱きしめる。

「森!?」

森は答えない。

植木のぬくもりを、味わっておきたかったから・・・

「あのね・・・恐い夢を見たの・・・」

「なんだ?」

「植木が、あたしを守って、消えちゃう夢・・・」

その夢は、いままででも、見たことがあった。

でも、今回ほど鮮明なものは無かった。

「森・・・」

「夢では、植木があたしを守って消えても、後悔しないって、言ってたけど、残されたあたしの気持ちも考えてよ!あんたがいなきゃ、あたしはだめなの・・・」

夢での出来事なのに、思いを植木にぶつける。

植木は優しく、森を抱きしめた。

「森・・・おれはお前を守る。でも、おれだって危険な目にあうかもしれない。でも、おまえが、おれを必要としてくれるなら、おれは絶対におまえを残して死なない!」

森を抱きしめる手が、強くなる。

「植木、ありがと・・・」

「だから、森もおれを残していかないでくれよ!」

「当たり前じゃん!植木のそばにずっといるよ!」

森も植木を強く抱きしめた。

(いつまでも、そばにいてね。植木・・・)


あなたがいないと、あたしはだめになってしまう。
いつまでも、そばにいて笑っていてほしい。
人はいつか、離れてしまうけど・・・あなたとわたしは、いつまでもつながっているはず。
だって、これだけ、結ばれているんだもん・・・
だから、いつまでもいっしょにいれるよ。絶対!

終了



あとがき
シリアスで少し甘めを最後に入れてみました。
どうでしょう?感想が欲しいですね。
突然、思いついたネタなのですが、結構いいと思いますよ。
書いてるときに、涙腺が結構きました。
以上、朔夜でした!

2004年12月7日