大人になるまえに










「吸ってみるか?」

そんな、コバセンの言葉で、植木はタバコをすった。

「ゴホ、ゴホ」

植木は、当然タバコを吸ったことがなかったので、むせる。

「ま、最初は、そういう風だな」

コバセンが、からかうように言った。

コバセンは本当に、大人なのだろうか?

仕事はやらないし、遊び呆けているし、そこらへんの大人より、かなり悪い。

植木は、タバコを見ながら聞く。

「なあ。コバセン。大人ってさあ、こういうのをできなきゃいけねえのかな?」

すると、コバセンは笑っていった。

「そんなことはねえよ。だって、犬丸だって、酒が苦手なんだぜ。こんなことで、大人とか決めてたら、しょぼい世の中じゃねえか」

植木は話を聞きながら、また、タバコを吸った。

「それに、そればっかり吸ってたら、本当はいけねえんだぜ」

当然だが、タバコばっかり吸っていると、がんになってしまう。

「なら、なんで、コバセンや大人は吸うんだ?」

植木は、それが疑問だった。

病気になるというのに、吸いたがる。こんなおかしいことはない。早く死にたいというのなら別だが。

「さあな。ま、休息ができるからじゃねえか」

「休息なら、コバセンはいつもそうじゃん」

「いくら仕事を休んでても、先生や、生徒の前で、昼寝とかなんてできねえだろ。だが、タバコだったら、吸ってても、別に、大人としておかしな行動をしているわけじゃない。だから、そういう理由につけこんででも、大人は休息が欲しいのさ」

「ふーん」

コバセンの話を聞いていると、妙に納得する。説得力があるというのか。

「つまり、大人は、休息が欲しい人間だってことだ。」

「じゃあ、子供はどうなんだ?」

「子供は違う。大人が仕事をしているときも、休んでいたり、遊んでいたりする。十分に休息は取れているだろ」

「確かにおれもそうだな」

コバセンはうえきの右肩に手をかけ言った。

「まあ、大人になる前に十分に人生を楽しめ。後で後悔してもしらねえぞ」


大人は確かに、うらやましい。
だが、大人にとっては、子供というのは、いちばんうらやましいものかもしれない。
大人の休息が、子供にとっては、少しだけに見えるかもしれない。
でも、子供もいつか大人になる。
そのときに、きっと、わかるだろう。子供のころのよさが・・・

2004年12月7日