「……。はっ?」
植木耕助。ただいま、信じられない光景を目の当たりにしました。
能力って怖いねぇ
事件は、数分前に起こった。
当たり前のように、能力者からバトルを挑まれた植木。
だが、植木は最近、花粉症が酷くなって少しボーっとしていた。
いつもだったら余裕で倒せたはずなのに、そんなもんだから思わず判断が鈍ったのだろう。
危うく体勢を崩しかけたところに相手の攻撃が繰り出された。
「植木、危ない!」
何故か、近くにいた森が植木を庇うために飛び出し、相手の攻撃に直撃したのである。
「森!!」
植木も思わず声をあげる。
だが、次に植木の視界に写ったのは森の姿ではなく……。
突如、植木の足元に現れた猫の姿だった。
つまり森の姿はきれいさっぱり消え去っているわけである。
体どころか服すら、まるで最初からそこに何もいなかったかのように。
「お前!! 絶対に許さねえからな!!」
森が消えたことで、植木は自らの憤りをあらわにし、相手へと向ける。
そんな植木の様子に、相手の能力者も恐れを抱いた。
そして数分後、顔が変形するまで殴られた相手の姿がそこにあった。
どうやら倒すだけでは許しきれなかったようで、何度も殴ったようである。
すっかりのびている相手の胸倉を掴んで、植木は問いただした。
「おい、お前!! 森をどこにやったんだ!!」
相手は気絶状態からゆっくりと意識を取り戻す。
返答次第では、再び殴りかかることすら想像できるほどの威圧感だった。
そんな植木に怯えた相手は、ゆっくりと指を動かしていく。
「そ、そこにいるだろ」
植木はすぐさま振り返って、相手の指差した方角を見る。
だが、植木の視界には何も写らず、ただわかったことといえば先ほどの猫が自分に擦り寄っていることしか分からなかった。
「そこってどこなんだ!! 猫しかいないじゃねえか!!」
「だ、だから、その猫がだよ」
「……。は?」
相手の言っていることをまったく理解できない植木。
自分に擦り寄っている猫が森?
まさか、俺を騙すための策略か?
植木はあまり動かない頭を、フルに回転させて考えた。
つまり、こいつの能力は相手を猫に変える能力。だということか?
という結論にたどり着いた。
「わ、分かったならいいだろ! 早く離してくれ!」
植木の様子に怯えきっている相手は、早く立ち去ろうとする。
だが、植木がそれを許すはずもなく、再び胸倉を掴みあげる。
「じゃあ、早く森を元に戻せよ」
だが、相手は首を必死に横に振った。
「能力失ってから、元に戻すなんて無理に決まってるだろ!」
相手の意見はごもっともだった。
(時間が経てば、元に戻るのか?)
植木の不安は募るばかりだった。
そんな間に、何かを言い続ける相手の胸倉から手を外し、解放させた。
すると、相手もそそくさとその場を立ち去っていった。
残ったのは、植木とその猫。ただ二人。
(この猫が、森?)
もう一度、植木は目を凝らしてジーッと見つめる。
そんな植木の視線に気づいたのか、猫もニャーと声を上げる。
しかし、やはり何処からどう見てもただの猫だ。
ひょっとして、相手があの場からやり過ごす出任せだったということも想像できる。
だが、森が攻撃を受けてからこの猫が突然現れたのも、また事実だ。
(……)
どうすればいいのか、植木はとにかく悩んだ。
そして悩みに悩んだあげく、出した答えは……。
「家に連れて帰るか……」
自分の家に、猫を持っていくことだった。
「ただいまー」
「……」
どうやら、誰も帰ってきていないようだ。
机の上を見てみれば、料理が置いてあって、その上に姉ちゃんのメモが置いてある。
耕ちゃんへ
今日は、大学の授業の関係で遅くなります。
だから、夕飯は温めて食べてねー。
追伸
お父さんも、今日は仕事が忙しいらしくて帰れないって言ってたわよー。by翔子
「……」
こんなときに限って。頼るべき相手が誰もいないことに、植木は小さくため息をついた。
(まさか、森の父さんに説明するわけにはいかないしな……)
植木は、そんなことを考えたがすぐに却下した。
第一、自分の娘が猫になってしまったんです。などと伝えても、絶対に信じてくれるはずがない。
……まぁ、考えてもみれば植木の父親なら有り得るかもしれないが。
とりあえず、自分の手元で嬉しそうに寝ている猫を床へと放した。
そして、自分もその近くへと腰を下ろす。
(大体、どうやって猫って世話すればいいんだ?)
それが一番の問題だった。
犬はシャンプーしてもいいと聞くが、猫はいいのか?
いや、それ自体、猫は何を食べる?
(魚……だよな。サ〇エさんでもやってたし。)
念のため、冷蔵庫を開けて確認してみる。
するとそこには、めっちゃくちゃ高そーな紅鮭が……。
父さんが奮発して買ったのだろうか。
(……。森のためだ!!)
父さんには悪いが、森の命に関わることなので背に腹は変えられない。
そう、自分に言い聞かせて、植木は紅鮭を手にした。
紅鮭を猫(森?)に渡すと、猫はおいしそうに紅鮭を食べ始めた。
そんな光景に満足しつつ、猫はミルクを飲むことを思い出し、植木は冷蔵子からミルクを取り出す。
そして皿にミルクを少しだけ注ぎ、猫の前におく。
すると、猫は舌を出しながら、ミルクをペロペロと舐め始めた。
(か、かわいい……)
植木耕助。今現在、この猫を物凄く抱きしめたいという衝動に襲われているようですね。
しかも、これが森だということが余計に拍車をかけているようで。
「……」
植木耕助。自らの衝動を抑えきれず、猫を抱きしめてしまいました。
しかし、猫も嬉しそうに植木に頬ずりをしていました。
しかし、植木もどうやらお腹が空いたようで、猫を床に下ろしました。
床に下ろすと同時に、猫も再びミルクをペロペロと舐め始めた。
(俺も食べるか……)
そう考え、植木は用意されてあった夕飯を電子レンジの中へと入れた。
植木と猫の二人だけの食事だったが、植木にとっては何とも楽しい食事だった。
(風呂……)
植木は飯を食べた後、すぐ風呂に入るのですぐさま着替えを取りにいこうとした。
すると、猫も何故か植木の後についてくる。
植木が疑問に思いながら、猫に一応問いかける。
「一緒に入りたいのか?」
そんな植木の言葉に、猫はニャーと答える。
当然猫語は、植木には分からないが、一緒に入りたがっているということは何故か分かった。
(そういえば、猫って風呂に入れていいんだっけ?)
そんな疑問を抱いたが、すぐに
(ま、犬も風呂に入れるんだし、別にいいよな)
と考え、抱いた疑問はどこかに放りだした。
植木は、自らの着替えをとってくると、猫と一緒に風呂に入ることにした。
やがて風呂に入った植木だが、まずは猫の毛を石鹸で洗った。
当然初めてのことだから、慣れているはずもない。
だが、何とか時間をかけて猫の身体を洗いきった植木は、猫を胸に抱きながら湯船に浸かった。
「ふぅ……」
今日の疲れが抜けて、植木は大きく息をつく。
「……」
そのまま植木は、ボーっと前を見つめる。
「……。早く戻ってくんねえかなぁ?」
ボソッと呟いた植木の言葉に、猫はニャ? といった感じで、疑問詞を浮かべる。
だが、植木は猫が反応していることに気づいていない。
再び、呟くように植木は言う。
「森に謝らなきゃいけないのにな……。俺。」
そんな植木の呟きに、何故か猫は嬉しそうに植木にすがりつく。
そのときだった。
突如、身体に飛びついてきた猫が重くなってきたかと思うと、次に植木の視線に写ったのは……。
「……」
一糸纏わぬ森の姿だった。
いきなりとんでもないものを見てしまい、植木は思わず呆然とする。
「あれ? ここは……」
森はというと、状況がまったくつかめていないようで視線をキョロキョロと動かす。
そして、森と植木の視線が重なる。
「「……」」
二人の間に長い沈黙が流れる。
そして、その沈黙を破ったのは……。
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
隣の家にまで迷惑がかかるであろう叫び声を上げた森だった。
そして、森は勢いよく湯船から立ち上がる。
「「あっ……」」
またもや植木と森の間に沈黙が走る。
しばらくすると、森は顔を真っ赤にして……
「う、植木の……バカーーーーーーーー!!」
勢いよく風呂場を抜け出していった。
植木はというと、浴槽に口まで沈めていた。その顔は真っ赤である。
(ふ、不意打ちすぎだろ……)
ブクブクと音を立てながら、植木はゆっくりと湯船に浸かった。
その後、着替える服を探し中の森と、植木が再び対面したことは言うまでもない。
結局、仲直りする機会を失ってしまった植木でした。
終了
あとがき
出来ましたぁぁぁぁぁぁ!! アンケート小説第三弾!!(イエス!!)
森が相手の能力で猫になる。というのは、かなり難しかったですよぉ。(汗
あと困ったのは、猫についての情報ですね。
私の家、猫どころかペットすら飼ってないもんですから、猫って何食べるっけ? って本当に悩みましたよ(笑
まぁ、二人が「「あっ……」」と言った理由は深読みすれば分かると思いますよ。
さぁてぇと、次の20000HIT記念の小説は、年齢制限小説にしましょうかねぇ。
という、野望を立てている朔夜です。
夢小説を書けといわれてもいますが、とりあえず二次メインは変わりません。