ポラロイドカメラ
植木は、佐野たちとともに、遊園地に来ていた。
「次、あれ乗ろうよ」
遊園地にいくことを決めたのは、鈴子だったのだが、一番楽しんでいるのは、間違いなく、森だ。
その元気なことといったら、最初に、ジェットコースターに乗って、その後、連続して、違うジェットコースターに乗るほどだ。
植木たちは、もうそれだけで、「気持ちわりー」とかいっているのに、森は、「あんたら、なにやってんの?」といわんばかりに、勧めてくる。
「元気なやっちゃなー」
佐野は、森の異常なはしゃぎぶりに、驚いていた。
「そうか?いつも、おれには、あんな風だぞ」
植木は、あまり、森の様子には驚いていないようだった。
「でも、バトルのときは、あんな無邪気じゃありませんね」
鈴子も、すこしばかり、驚いているようだった。
「ねえ。みんなどうしたの?行こうよ!」
そんな他の人たちの心はつゆ知らず、森は次のアトラクションに向かおうとしていた。
「はいはい」
全員は、まさに、森がリーダーになって行動していた。
(バトルのときは、植木なのにな)
すると、佐野が、途中で足を止めた。
(ここは・・・そうや、いいこと思いついたで)
佐野にひとつの考えが浮かんだ。
そのアトラクションとは、お化け屋敷。佐野は、少し森をだまらせようとしたのだ。
(ちょっと、こらしめてもいいやろ)
「おーい。今度はここ行こうや」
佐野の思い通り、森や鈴子は、うっ、という声を上げて、黙った。
一方の植木は、
「お化け屋敷かー。おれ大好きなんだよな。行こうぜ、森!」
「うっ、あ、あたしはいいわよ・・・」
いままで、連れられていたという感じの植木が、初めて、とても楽しそうにしている。
逆に、いままではしゃいでいた森は、まったく逆の状態になった。
「そうですわ。お化け屋敷なら1人でいってらっしゃいませ」
鈴子が森をかばったが、佐野が耳打ちをした。
「鈴子、ここは、森と植木を二人きりにしてやらんと」
思い切り、面白がっている。
その裏の目的を知る由もない鈴子は、
「意外と、佐野君も優しいですわね」
と、感心していた。
佐野は、してやったりという顔をしていた。
鈴子は、さっきと逆のことを言った。
「あいちゃん、せっかく、植木くんが誘っているのですから、いって差し上げたら?」
「鈴子ちゃん!?そんなこといったって・・・」
「まさか、恐いんか?」
「そそそ、そんなわけないでしょ。ああ、あたしが、おおお、お化け屋敷なんか恐いわけないじゃない。」
明らかに恐がっている。これを聞いて、佐野は、しめたと思った。
「なら、いってこや、いいやん。恐くないんやろ」
「うぅー」
森は、完全に反論ができなかった。さらに植木から、
「おれと行くのが嫌なのか?」
という言葉まで、きた。
こんなことをいわれては、断るにも断れない。
「そ、そんなわけないでしょ。さ、さあ、早く行きましょ」
森は、そんなことを言ったが、まったく進もうとしない。
植木が森の右手をひっぱって、中へと連れて行こうとした。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
植木は立ち止まったが、手は離そうとしない。
「植木、中へ連れてったれ」
そのことばを聞くと、植木と森は、中へ入っていった。
(あぁー。あの二人が、どんな風になるか楽しみやな)
お化け屋敷の中に入ったのはいいが、森が進もうとしない。
「森、先行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
植木が先にいこうとしたので、あわててついていったが、植木の近くによる前に、右側から、声が流れた。
「キャーーーーー!!!!!!」
森はあまりの突然の出来事に、思い切り、植木に抱きついた。
「も、森!?」
「あ、ご、ゴメン」
しかし、離れようとすると、また声が流れた。
離れる間もなく、また、植木に抱きつく。
「森、恐いのか?」
「こ、恐いわよ!」
佐野たちの前では、すっかり強気だったが、いざ入ってみると、もうすでに、泣きそうである。
「おれが、そばにいるから、大丈夫だ。」
植木のことばを聞いて、恥ずかしくなったが、少し安心した。
「ありがと、植木」
それからは、声や、お化けの登場のたびに植木に抱きつくのだが、泣きはしなかった。
お化け屋敷から出ると、佐野が笑って待っていた。
「どうやった。恐かったか?」
「ああ、けっこう・・・」
「森は、どうや?」
「こ、恐くないわよ」
中ではすっかり弱気だったくせに、いざ外に出てみると、態度が変わる。
(こいつ、負けず嫌いだな)
植木はそう思った。
それからは、また、いろんなアトラクションに乗った。
時刻は、もうすぐ9時になるところだった。
「そうや、ここの遊園地は9時になったら、いまは、花火が見れるんやったな」
「そうですわね。たしか、それを観覧車で見るのが一番いいと聞きましたわ」
そんなことをいったら、もういくところは決まっている。
「次は、観覧車にのるで。ええな?」
だれも反論はしなかったが、乗る相手には反論があった。
「じゃ、観覧車は、わいと鈴子、植木と森でええな」
とうぜん、反論するのは、森だ。
「な、なんであたしが、植木と一緒に乗らなきゃいけないのよ」
すると、佐野が皮肉っぽくいう。
「なにをいっとるんや。本当は、植木と2人きりになれるのが嬉しいんやろ。顔に書いてあるで」
そのことばを聞いて、森は耳まで真っ赤になった。
「森、そうなのか?」
「な!?ち、違うわよ!」
「じゃ、早くいくで」
観覧車に向かう途中、森は反論をしていたが、だれも相手にしなかった。
(ど、どうしよー。確かに植木と2人きりは、嫌じゃないけど、恥ずかしいよ)
そうこういっているうちに、観覧車の前まで来た。
あと9時まで、20分だ。
少し並んでいたが、それくらいで乗ったらいちばんいいところで、花火が見れそうだ。
「じゃ、お先に。たっぷり楽しめや」
佐野と鈴子は前のゴンドラに乗った。
「あんたねー」
「まあ、いいじゃねえか」
「よくないわよ」
森は、動揺しているのに、植木は、かなりのマイペースである。
(こいつ、あたしと2人きりでもどうも思わないの?あたしは、こんなにも動揺してるのに)
はっと、森は正気に戻った。
(あ、あたし、なに考えてんだろ)
次の観覧車が来たので、植木と森は、ゆっくり乗った。
「ごゆっくりどうぞ」
観覧車担当の人にいわれた。
(ゆっくりできるわけないでよ)
森は、ひそかに、思った。
森と植木は、しばらく会話がなかった。
(あぁー。どういうこと話せばいいんだろ。わかんないよ)
外を見ている植木の顔を見ながら、森は思った。
その視線に気がついたのか、植木がこっちを向いた。
「森、なんか用か?」
「え!な、なにも」
「そうか」
すると、植木はまた外のほうを向いた。
(び、びっくりした。いきなりこっち向くんだもん)
今日は、なにか、佐野に遊ばれてる感じがする。と思った。
すると、植木が突然、
「うわー。すげー。見てみろよ、森」
といって、外に指をさした。
「え?何?」
すると、外では、ちょうど花火の一発目が始まったころだった。
「きれー」
「きれいだな」
植木と森が花火に見とれていると、森が思い出したようにかばんからポラロイドカメラを出した。
「これで写真とろ!」
「ああ、いいぞ」
2人は花火を背景に、写真をとろうとした。
森は、植木を撮った。しばらく取った写真を振っていると、画像が出てきた。
あまりきれいには写らないが、けっこういい出来だと思う。
今度は、植木が森をとった。
「きれいだな」
植木が言った。
「え!そんなにきれいに撮れた?」
といって、森が写真を見たが、写真には何も写っていなかった。
「何も写ってないじゃない!」
「きれいなのは、おまえだよ」
「え?」
(い、今、なんて言ったの?こいつ。あたしのこと、きれいって。え!?)
森の顔が徐々に赤くなっていく。
「お前と見れてよかった。森と見たら、なにもかもが楽しく見えるから・・・」
怒涛のことばに、もう森の顔は耳まで真っ赤だった。
「あああ、あんた、な、なに言ってんの?」
「森・・・」
植木は、森を抱きしめた。
「え!?ちょ、ちょっと植木!?」
押し戻そうとするが、背中に回された手はますます強くなるばかりだ。
「キスしていいか?」
(えー!!!!!!)
それは、森もひそかに願っていたことだったが、まさか、植木が言ってくるとは思わなかった。
「だめなのか?」
返事はしなかったが、森は、首を横に振った。
すると、植木は顔を近づけてきた。
森は目を閉じ、唇に、やわらかい感触がくるのを待つ。
軽く、植木のそれが、森の唇に触れた。
「来年も来ような」
「う、うん・・・」
2人の後ろには、花火が飛んでいる。
それは、ポラロイドカメラで、見ることができる。
しかし、2人の関係は、カメラなんかでは表せない。
2人の恋は、始まったばかりだ。
おまけ
観覧車を降りたあと、佐野たちが話しかけてきた。
「どうや、きれいだったやろ」
「う、うん。そうだね・・・」
「あいちゃん。顔が真っ赤ですわ。どうかしましたか」
「え!?いや、な、なんでもないよ」
「そうですか。でも真っ赤ですわ」
すると、佐野が言った。
「おまえら、ひょっとして、観覧車の中で、キスしたんやないやろうな」
「な!?」
みるみるうちに、2人の顔が赤くなっていく。
「ははーん。図星やな」
「そ、そんなわけないでしょ。ね、植木!」
「お、おう」
それから、2週間近く、植木チームの中では、植木、森キス疑惑が話題になったらしい。
あとがき
どうでしたでしょうか。はっきりいって甘すぎ!!!あの、こういうのが好きではない人はごめんなさい。
でも、こんなこと、本当の漫画ではしませんから、一度でも書いてみたいんです。
題名はあまり関係ありませんが、けっこうかけました。
これからもよろしくお願いします。
朔夜でした。
2004年12月7日