受験生の災難
たたかいを終えて、中学三年生になった植木たち。
数学の時間では、平方根を習い始めたころだった。
√、それは、二乗できる数のこと。
「では、√2の平方根はなんですか?」
植木はさっぱりわからない。まず、第一に√というものがあっても、意味があるのか?とおもう。
さすがに勉強の才をなくしているからでもあるが、√2の平方根をすべて覚えているやつなどあまりいない。
「はい、1、41421356です」
どうやら、おぼえ方は、ひとよ、ひとよにひとみごろというらしい。
しかし、そんなのを理解できるほど、いまの植木は頭がよくない。
後ろの席に座っている森だって、理解していないようだった。
「では、明日までに√2、√3、√5の平方根を覚えてくるように」
「え〜!!!!」
おもわず、クラスから悲鳴が上がる。
いくらなんでも、そんなくだらないことで勉強などやってられない。
(やっべー。おれ、覚えなきゃ)
植木は、マイペースなのだが、宿題はきちんとやる。
勉強の才がなくなってからも、いくら期間が過ぎても、姉や父の手助けを借りて、何とかできていた。
しかし、今回はわけが違う。
親は、そんなことは忘れているかもしれない。
いや、覚えていないかもしれない。
だから、教えてもらうには、同じくらいの年代の人がいいのだが、あいにく、植木にはそういう相手がいない。
(どうしよっかな。姉ちゃんたちには聞けねえし、おれ、女子に嫌われてるしな・・・ん?女子?)
たしかに女子に好かれる才がなくなった植木だったが、一人だけ相手にされている女子がいた。
それは、森だった。
さっそく、かばんの片づけをしている森に近づいた。
「なあ、森。√教えてくれねえか?」
「はあ?あんた、本気で勉強するつもりなの?」
森はどうやら、勉強をサボるらしい。
いくら手を上げていても、当たるのは数人だけだと思っているからだろう。
「頼む!おまえの家で勉強させてくれねえか?」
「え!?あ、あたしの家!?で、でも・・・」
なぜか、森の顔が赤くなっていることに植木が気づく。
(ん?森、どうしたんだ?おれ、なんかへんなこと言ったか?)
「だめなのか・・・?」
「べ、べつに、いいわよ」
「そっか、ありがと・・・森!」
植木は、自分でもわかるほどの笑顔を森に見せた。
すると、森の顔の赤みがますます濃くなっていることに気づいた。
(本当に、どうかしたのか?森?)
「じゃあ、今日の1時からな」
今日は、学校が午前授業なので、充分に勉強できる時間があった。
「う、うん。わかった」
森の顔があまりにも赤いので、一瞬、体調が悪いのかと思った植木は
「森、熱でもあるのか?」
といって、森の額に手を付ける。
「う、植木!?」
森の顔は、りんごのように真っ赤である。
そして、自分の額に手を付ける。
「熱はねえんだな。なら、なんで顔が赤いんだ?」
「え!?そ、それは・・・」
森が答えるまえに、植木は先ほどのことを疑問に思っていた。
(熱がないのに、なんで森は顔が赤いのかな〜?)
「・・・から」
「え?」
あまりに小さい言葉だったので、ちゃんと聞き取れなかった。
「恥ずかしいからっていったのよ!」
「そうなのか?」
しかし、最初の言葉は最初の言葉が、「す」のように聞こえたのだが、まあ、森がいっているのだから、嘘ではないと植木は思った。
それに、最初が「す」の言葉なんて、見当たらなかった。
(す?「す」って、食べ物しかねえじゃん)
植木の頭には「スパゲッティー、スープ、ステーキ、すし」などといったものしか思い当たらなかった。
やがて、午前中の授業も終わり、いつもと同じで二人で帰ることになったのだが、いつもと森の様子が違う。
なにかそわそわしている様子だった。
「森、本当は今日、無理してないか?」
「え!?そ、そんなわけないでしょ」
しかし、森は落ち着かない様子だった。
森が、無理をしていると、植木はなぜか心配になる。
森には無理をして欲しくないので、植木は
「ほら」
といって、森に背中を向けて座った。
「なに?植木?」
「乗れってこと」
「え!?い、いいわよ。そんなことしなくても」
「だって、顔赤いし、落ち着いてないし、どっからどう見ても、体調が悪いんだろ。だから、乗れ」
「でも・・・」
「いいから」
しかし、今まで顔はあまり赤くなかったのだが、また植木の言葉で森の顔が真っ赤になった。
(ひょっとして、おれのせいなのかな?)
最初は、もともと赤かったように思っていたのだが、自分の言った言葉一つひとつで、顔が赤くなっているので、自分のせいだと思った。
「森、ひょっとして、おれと帰るのがいやなのか?」
「え!?なんで」
「だって、おれが何か言うと、顔が赤くなるだろ。それで、おれといると、なんか体調が悪くなるのかな・・・って思った」
「そ、そんなわけないでしょ。あ、あたしだって、体調が悪かったら学校に来ないわよ。それに、植木と帰るのがいやなわけないでしょ」
最後の言葉は再び、小さい言葉だったので、聞き取れなかった。
「ん。わかった」
再び、植木は森に笑顔を見せた。
やはり、そのときの森の表情は赤かった。
その後、何度も話して、森は植木におぶさることになった。
そのとき、まったく会話がなかったが、森が幸せそうな顔をしているのを見て安心した。
(よかったー。森が、喜んでくれて・・・でも、なんでよろこんでんだ?)
喜んでいてくれることは嬉しかったが、なぜ喜んでいるのかはなぞだった。
(まあ、いいか・・・)
やがて、森の家の前について、入ろうとした。
「あ、ちょっと待ってて!」
そういうと、森は植木を待たせて急いで家の中に入っていった。
(なんかあったのか?)
20分くらいたつと、森が出てきて“入ってきていいよ”といって、中へと案内してくれた。
森の家に入るのは、今回がはじめてである。
いままで、女子の家の中に入ったのもはじめてだった。
いや、そういえば姉の部屋には入ったことがあった。
中に入ると、やはり姉の家のように、男子の住んでいる家とは違う雰囲気がする。
「あぁー。きみが植木くんかい?」
「はい。そうですけど?」
自分に話しかけてきたのはおそらく、森の父親だろう。
「森がいつもお世話になってるね。森、仲良くしてあげなよ」
「お父さんには余計なお世話!」
「いいのかな?そんなこと言ってると、お父さん、森が秘密にしてて、っていってたこと言っちゃうぞ!」
「そ、それはやめて!」
森の顔が真っ赤になっていて、森の父親がこっちを見てニヤニヤ笑っている。
(なんなんだ?一体)
その後、森と森の父親の話を静かに聞きながら、話が終わるのを待った。
しかし、いつまでたっても話が終わらないので、話を出すことにした。
「なあ、そろそろ勉強したいんだけど・・・」
「あ、ああ。そうだね」
「じゃあ、どこで勉強するんだ?」
「え?じゃ、じゃあ、あたしの部屋で勉強する?」
「ああ、そうだな」
そうして、2階にある森の部屋に向かった。
うしろから、手を振って森の父親が笑っている。
やがて、森の部屋に入ったのだが、きちんと掃除されていた。
「意外と、森もきれい好きなんだな」
「え?そ、そうかな?」
なにやら、森は落ち着いていない様子だった。
(本当に森はどうしたんかな?)
まあとりあえず、勉強をすることにした。
「えっと、√2の平方根は、1、41421356だよな。森」
「え!?う、うん」
なにやら、うわのそらという感じである。
まったく、話を聞いていないような気がする。
(まったく、森のやつはどうしたのかな?顔が赤くなってて、ボーっとする・・・あ!)
植木は、なぜ森がそんな風になっているのかに予想を立てた。
「森!」
「な、なに?」
「おまえ、ひょっとして・・・恋の病だろ!」
「え!?な、なんで?」
どうやら、図星のようだ。
森は、植木の言ったことにとても驚き、顔を真っ赤にさせて植木のほうを見ている。
「だって、姉ちゃんが言ってた。“女の子がボーっとしていて、顔が赤くなったらそれは、恋の病なのよ”って」
しかし、いつもながら植木の姉は植木になんということを教えているのか・・・。
森は、少しそれが植木の家の、少しおかしなところだと思っていた。
植木は森の手をにぎった。
「ヒャッ!」
森が思わず、変な声を出す。
「森、誰かのことが好きなら手伝ってやるからな。んで、森の好きなやつはだれなんだ?」
「い、いきなり、そんなこと聞く?」
「だって、森の好きなやつってどんなやつか気になるじゃん」
「それだけ?」
「それだけって、なに?」
なにやら、森は他の言葉を待っていたようだ。
「ううん。なんでもない」
森は、どこか期待していたようだった。
(なんだ?森のやつ、何か言ってほしかったか?)
「安心しろよ。森のことはおれが守ってやるからな。そいつと仲良くなるまでな」
「ずっと、守っていてくれないの?」
「え?」
(なんていったんだ?こいつ)
「森?」
「植木にはずっと守っていてもらいたいの。一緒にいてもらいたいの」
「え?」
「植木はあたしのことどう思ってるの?」
「お、おれ?」
「あ、あたしは、植木のことが好きだよ」
森は、顔を真っ赤にさせながら植木に告白をした。
(おれにとって、森はどういう存在なんだ?おれにとって森は・・・)
いままでのことを思い返してみる。
一番守りたかった人。
一番近くにいたかった人。
自分のことを助けてくれた人。
それはすべて森だった。
植木は、それまでそのことを友達だからと思っていた。
(おれは、森のことが・・・)
「植木?」
「おれもやっと気づいた」
「え?」
「おれもおまえが好きだ」
「植木・・・本当?」
「森に嘘つくわけないだろ!」
「植木、あたしうれしい・・・」
森が泣き出したので、優しく抱きしめた。
(やれやれ、勉強をするんじゃなかったのかな?)
その様子を森の父親が静かに見守っていた。
(まあ、父さんは森に大切な人ができただけで嬉しいぞ。永遠に仲良くしなさい)
√の勉強も悪くないと、植木は思った。
終了
あとがき
終わり方中途半端だ!ああ、なんか甘いのを書きたかったのに、微妙!
この小説を読んで、物足りないという人もいるかもしれないな(笑
まあ、がんばってみました。
以上、朔夜でした!
2004年12月7日